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女性にとって身近な尿もれの悩み

せきやくしゃみをしたとたんにもれてしまった・・、トイレに間に合わずについもれてしまったという経験はありませんか? 尿もれは恥ずかしくて、人に相談できない悩みですね。でも、実は女性にとってはとても身近なトラブル。成人女性の3~5人に1人が尿もれに悩んでいるといわれています。

女性を襲う生涯で3度の「尿もれの危機」

女性の尿漏れの原因で、いちばん多いのが「腹圧性尿失禁」と呼ばれるものです。せきやくしゃみ、坂を下るときなど急に腹圧がかかったときにチョロッと尿がもれてしまう、というのがこのタイプ。原因は、骨盤底筋の弱まりや傷つきから起こります。

骨盤底筋とは、骨盤の底にあって膀胱や尿道、子宮、直腸などをハンモックのように支えている筋肉群のこと。尿道や腟、肛門を締める重要な役割ももっています。その骨盤底筋がゆるんだり、尿道をささえる恥骨尿道靭帯という靭帯が傷つくと、尿を止めるための、靭帯を支点にした骨盤底筋の協調運動ができなくなり、せきやくしゃみなど腹圧がかかったときに、尿道が十分に締まらなくなって尿もれが起こるのです。

 

骨盤底筋肉がゆるむ最大の原因は、妊娠・出産です。妊娠中は、大きな子宮を支えるために骨盤底に負担がかかるために、妊婦さんの9割くらいは、多かれ少なかれ尿もれを経験します。また、お産のときは骨盤底筋はダメージを受けるため、産褥期にも尿もれが続くことがあります。しかし、妊娠・出産で起こる尿もれの多くは、一過性のもので、骨盤底が回復するとともに自然に治り、分娩後1年後たつと9割の人は尿もれがなくなります。そのため多くの人は、そう深刻に悩むこともなく尿もれをやり過ごしてしまいます。 けれども、その後、更年期に第二の尿もれの危機を迎えます。

 

閉経によって女性ホルモンのエストロゲンが減少することで、骨盤底筋の筋力が低下するために尿もれが出やすくなるのです。さらに、老年期に入るとさらに脳の血流低下による膀胱の過活動も起こるようになり尿もれに悩む人はいっそう増えて、悩みも深刻になってきます。

まず骨盤底筋体操を。手術も簡単に受けられ、効果的

腹圧性尿失禁の治療の中心は、骨盤底筋体操です。また、骨盤底を強化するために行う電気・磁気による刺激療法も有効です。薬物療法もありますが、あくまでも対症療法で根本的な治療にはなりません。

<骨盤底筋体操>

骨盤底筋体操は、簡単に言うと自分の意思で腟や肛門を動かすトレーニング。まずは、基本動作をマスターして、慣れてきたら日常生活の中に取り入れて習慣化しましょう。

基本動作

姿勢を正しくして立ち、片手をおなかとおしりにそれぞれあて、次の要領で腟と肛門を締めたり、ゆるめたりしましょう。

 

基本のポーズ

・体によけいな力を入れないで、腟と肛門を軽くキュッと締めたり,ゆるめたり。これを2~3回繰り返す。

・今度は、ゆっくりギューッと締めたり、ゆるめたり。これを2~3回繰り返す。

・骨盤底筋全体を体の中に引き込むように、ゆっくりグーっと持ち上げて、次にゆっくりゆるめる。これを2~3回繰り返す。

応用編

慣れてきたら、いろいろな姿勢で行って日常生活の中に取り入れましょう!

テーブルを利用して

オフィスのデスクやキッチンのテーブルに手をついて立った状態で

椅子に座って

 バスや電車の中で座った状態で

 

新聞を読みながら

 

 床に新聞や雑誌を広げ、膝と肘をついた姿勢で

ベッドや布団の中で

毎朝ベッドや布団の中で仰向けに膝を曲げた姿勢で

 

尿もれの程度が重かったり、骨盤底筋体操や電気・磁気による刺激療法を行っても、症状が8割以上改善しない場合には、手術療法がすすめられます。尿失禁の手術はいろいろなものがありますが、多く行われているのがTVT手術と呼ばれるもので、緩んだ恥骨尿道靭帯を、特殊なテープで補強しすることで、骨盤底筋の協調運動を再生させます。欧米では日帰り手術が中心ですが日本では3泊~5泊の入院をすることが多いようです。

 

また最近は、TVT手術に代わりTOT手術が主流になりつつあります。TVT手術は、素晴らしい手術ですが、数%の確率で膀胱穿刺という合併症が起こったり、骨盤内出血などの可能性があります。この欠点を補うのがTOT手術で、手術時間は、TVT手術の半分程度ですみ、合併症のリスクも少なく行えるようになりました。TOT手術は、2~3泊程度で行えます。

 

さらに、TOT手術を超える最新の尿失禁の手術法として、現在注目されている手術法にTFS手術があります。TFSは、TVT手術とTOT手術両方の欠点を完全に克服した手術です。日帰り手術が可能です。ただ、最新医療のために、残念ながら現在はまだ健康保険が適用されず、自費手術(医療機関によって費用は違いますが、約27万円~)となります。

強い尿意が特徴の「切迫性尿失禁」

女性の尿もれで腹圧性尿失禁の次に多いのが、切迫性尿失禁といわれるもので、がまんできないほどの強い尿意が起こるために、トイレまでがまんできずにもれてしまったり、トイレには間に合っても下着をおろしている最中にもれてしまう、といった尿もれのタイプです。自分の意思とは関係なく勝手に膀胱が収縮してしまう、膀胱の過活動によって起こるもので「過活動膀胱」と呼ばれています(「頻尿に悩んでいませんか?」参照)。 治療は、薬物治療が中心ですが、軽い場合は骨盤底筋体操や膀胱訓練を行ったり、日常生活の心がけで治ることも多いものです。

 

また重症の過活動膀胱には、ボトックスという膀胱の筋肉の緊張をゆるめる薬剤を直接膀胱に注射する治療が、数施設の病院で開始されています。

ほかに、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が併発する「混合性尿失禁」というものもあります。このタイプの人の場合は、尿もれがかなり深刻ですが、腹圧性尿失禁の手術を行うと、約50%の人では切迫性尿失禁も改善することがわかっています。

専門外来で気軽に相談を!

尿もれがあると、外出がおっくうになったり、人と会うのが嫌になったりして、生活面でさまざまな形で不便が起こってきます。昔は「尿もれ」で悩んで思いきって受診をしても、まともに病気として扱ってもらえないことがほとんどでした。しかし、今は女性のQOLを下げる重大なトラブルとして認知されて、女性泌尿器科や婦人泌尿器科など、女性の骨盤底のトラブルを扱う専門外来が増えています。治療の選択肢もいろいろと増えていますし、よい治療法もあるので、恥ずかしがったり、あきらめたりせずに、早めに受診をしてください。

プロフィール

関口 由紀 先生
泌尿器科
関口 由紀 先生

1989年山形大学医学部卒業。
横浜市立大学医学部泌尿器科助手、横浜市立市民総合医療センターなどを経て、2007年横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了、客員准教授。
現在、横浜市立大学医学部付属病院で、女性泌尿器科外来を担当。
2005年4月より、『横浜元町女性医療クリニック・LUNA』を開設。
2008年6月 婦人科を分院し、女性医療クリニックLUNA・ANNEXを開設。
2009年5月 骨盤底トレーニングンターとして、併設していたLUNA治療院を拡大。
現在は、それぞれに女性院長を立て、その中心となる理事長として、世界標準の女性医療を目指す、新しい日本の女性医療の拠点作りを行っている。
医学博士、経営学修士