
ため息の意外な効用
「はぁ~~」……疲れているとき、がっかりしたとき、嫌なことがあったときなどに思わず出てしまうため息。
ため息にはネガティブなイメージがありますが、実は体にとっては意外な効用があるようです。
現代人は交感神経が優位になりがち
自律神経には活動時に働く交感神経とリラック時に働く副交感神経があって、この2つがバランスよく働いていると心身ともに元気に過ごすことができ、ストレスにも強くなるといわれています。
ところが仕事や人間関係などで、イライラしたり、緊張したり、ストレスを感じたり……多忙な現代人の多くはアクセル全開モードになりやすく、常に交感神経が優位な状態に偏りがちだといわれています。
そんなときに、ため息をつくことで、自律神経のバランスを回復させることができるといいます。
浅い呼吸が不安や緊張を増幅させる
「情動呼吸」という言葉をご存知でしょうか?
私たちは、驚いたときに思わず息をのんだり、不安や緊張を感じているときには呼吸が速く浅くなったりします。
反対にゆっくりおちついてリラックスしているときにはゆったりとした呼吸になります。
脳の偏桃体という部分が情動と呼吸を司っているために、感情に合わせて呼吸が連動することが知られています。これを『情動呼吸』と呼びます。
ときに情動呼吸は不安やストレスの悪循環を引き起こすことがあります。
不安や緊張を感じて交感神経が優位に働いているときには呼吸が浅く速くなりますが、この浅く速い呼吸がさらに不安や緊張を増幅させてしまうことがあるそうです。
こんなときにゆっくりと深い呼吸をすることで、副交感神経が優位に働いて心が落ち着き不安や緊張の悪循環から逃れることができるといいます。
「はぁ~~」と思わずため息をついてしまうときには、心と体が緊張状態にあって、知らず知らずのうちに体が交感神経の緊張をゆるめようとしていると考えられます。
リラックスを促すため息と呼吸法
ため息の研究については、アメリカ・スタンフォード大学のアンドリュー・ヒューバーマン博士が提唱する「生理学的ため息(フィジオロジカル・サイ)」がよく知られています。
連続して2回鼻から息を短く吸いこみ、1回長く口から息を吐くと、副交感神経が優位になりリラックス状態を促せるそうです。
また呼吸法では、アメリカ・アリゾナ大学のアンドルー・ワイル博士が提唱する「4-7-8呼吸法」があります。
「4-7-8呼吸法」とは、背筋を伸ばしてフーッと息を吐き、(1)口を閉じ4秒間鼻から息を吸い、(2)7秒間息を止めたのち(3)8秒間かけて息を吐き出す呼吸法を最大4サイクル繰り返すというものです。
これによって副交感神経が優位に働き「生理学的ため息」と同様、心身にリラックス効果をもたらすといいます。
場所に応じて上手にリラックスを
緊張モードをゆるめる効用があるといわれるため息は、緊張しているときやイライラしているときにぜひ実践したいものですね。
ただし、職場や家庭などで何度もため息をついていると「フキハラ(不機嫌ハラスメント=不機嫌さをアピールして周囲に精神的な苦痛を与える行為)」と取られてしまうので、ご用心。
職場や家庭では、周囲に人がいない状況でため息をつくか、周囲に人がいるときには密かに「4-7-8呼吸法」を行うとよいのかもしれません。
また、ため息も呼吸法も入浴時や就寝時などに行うと、リラックスしてよい眠りにつく効果が期待できるといわれています。1日の疲れを癒すためにも試してみては?
<参考>
※「介護ストレス 鍵は自律神経」(東京新聞/2025.9.26)
※「呼吸筋ストレッチ体操で息苦しさを改善しよう」(すこやかライフNo.55 独立行政法人環境再生保全機構)
※「小林弘幸『上を向いて歩こう』が健康につながる?「ため息」をつけばむしろ幸せが呼び込まれる!?自律神経と呼吸の深い関係について」(婦人公論.JP/中央公論新社)
※「人はなぜ疲れたり嫌なことがあるとため息をつくのでしょうか?」(読むらじる/NHKラジオ)
※「ストレスをやわらげる呼吸法」(北海道立精神保健福祉センター)