プラスコラム
PLUS COLUMN

高食物繊維・高タンパク質の食事ダイエットの効果は腸内細菌次第?

「体重や体脂肪を減らしたい!」そんな願いは世の中に溢れていますし、

ダイエット食品は星の数ほどありますが、

そんな願いに一筋の光を与えてくれそうな研究結果が発表されました。

「食物繊維を多く含む食事はダイエットに効果がある」とか、

「ダイエット食品の説明でも食物繊維がたっぷり」という言葉をよく耳にしますが、

その効果は万人に当てはまるのでしょうか。

デンマークで行われた、高繊維食による減量効果に関する研究の紹介です(1)。

 

高食物繊維・高タンパク質の食事と腸内細菌叢の違いで分けた

試験はデンマークで行われました。

ウエストサイズの増加があった被験者181人を、

食事量はこれまでどおり自由であるものの、

平均的なデンマーク料理(ADD)の群と、

高食物繊維・全粒などを主軸としたニューノルディックダイエット(NND)の群に無作為に分けました。

NNDはADDに比べて、食物繊維およびタンパク質が多く、低脂肪食であり、

炭水化物量は同等の食事です。

主に食物繊維の豊富な食材や全粒を利用した食品が重点的に使用されています。

また果物や野菜の食事に占める割合が多いのも特徴です。

 

26週間の食事管理を行い、

体重、体脂肪量、ウエスト周りの腹囲長の減少に対する効果を判定しました。

また、そのうち62人では便中の腸内細菌叢についても調べられました。

便中の細菌叢を属特異的に定量し、プレボテラPrevotella)属およびバクテロイデスBacteroides)属のベースラインに対する試験後の相対的な豊富さをそれぞれの菌で算出しました。その対数値を用いて、プレボテラ属のバクテロイデス属に対する比(P/B比)を算出し、基準として用いました。

先行研究から、この比は0.01を境に二峰性の分布を示すことが明らかになっているので、

この値を境にP/Bの高い群と低い群としました。

 

高P/B比の人にはADDよりNNDのほうが体脂肪減少効果あり

その結果、食事管理を始める前の段階で、P/B比が高い人のグループと低い人のグループにおいて、

この食事管理の影響が異なるという結果が出ました。

具体的には、高P/B比の被験者群の中で、ADD群に比べて、NND群は体脂肪減少量が3.15kg多い結果となりました。

しかし、低P/B被験者群では各食事群間で差がない結果となりました。

つまり、相対的にプレボテラ属が多いP/B比の高い人では、

NNDによる食事管理は体脂肪の減少に効果があった、ということです。

 

NND食事管理は低P/Bの人より高P/Bの人のほうが効果あり

さらに、食事管理に対する応答性の差についてですが、

NND群では高P/B比の被験者群と低P/B比の被験者群では体脂肪減少量に2.27kgの差がありました。ADD群では差がありませんでした。

つまり、同じ食事でも、P/B比が高い人と低い人では効果に差があった、ということです。

また、これらの結果は、減少した体脂肪量だけではなく、

ウエスト周りの腹囲長においても同様の傾向が見られ、

体重の差においてもわずかですが同様の有意差が見られました。

感度分析においても、大きな有意差が見られた結果となりました。

 

適した細菌叢にとってはNND継続は力なり?

その後1年間にわたって、食事管理はされないものの、全ての被験者はNNDを推奨されました。

その結果、ADD群からNNDでの食事推奨へと変更になった高P/B比の被験者では、ほぼ現状維持となりました。一方、低P/B比の被験者では、2.76kgの体重増加となりました。

結果として、NNDに対する応答性における差は、高P/B比および低P/B比の各群間で、3.99kgとなりました。

感度分析においては、その差は5.41kgにもなりました。

 

研究で注目した2種類の腸内細菌とは

これまでげっ歯類での実験から、エンテロタイプ(細菌叢の構成)は、採餌した食糧からのエネルギー摂取効率や、食欲に影響を及ぼす消化管ホルモンの分泌に対する影響があるということが明らかにされてきました。

ヒトでも同様のはたらきが注目を集めています。

中でも、プレボテラ属が比較的多い腸内細菌叢は炭水化物や食物繊維を多く摂取する人で優勢であり、バクテロイデス属が比較的多い腸内細菌叢はタンパクや動物性脂肪を多く摂取する人で優勢であるといわれています。

 

健康管理は自分の腸内細菌叢を知るところから始まるかも

一般的に痩せる効果がうたわれている高食物繊維食ですが、

どうやらその効果は万人に共通ではないようです。

痩せるにはまず、自分の腸内細菌を理解することが鍵なのかもしれません。

痩せるだけではなく、健康管理という側面からも、今後は自分の腸内細菌叢の理解が効率化の鍵を握る可能性があります。

ヒトの腸内細菌の研究はもうこんなところまで来ているのですね。

 

サイキンソーでは「マイキンソー(Mykinso)」という自分の腸内細菌叢を調べるサービスを提供しています。

検査で明らかになった様々な構成細菌やその割合などから、どのような体質の傾向があるのかということもわかるのですが、

その中には「太りやすさ」「下痢についてのタイプ判定」など様々な項目があります。

「それらの傾向を判定している基準は何だろう」と思っていたのですが、

こういった数々の研究から導き出された根拠に基づいて判定されているのですね。

編集長より

Mykinsoでは、今回登場したプレボテラ属とバクテロイデス属の割合も調べています。

「腸内細菌割合」の「より詳しい組成を見る」をクリックし、「属(genus)」で見ることができます。

List表示にしてPrevotellaとBacteroidesで検索して、自分のP/Bを計算するのも楽しいと思います。

参考文献

  1. Hjorth, M. F., et al. “Pre-treatment microbial Prevotella-to-Bacteroides ratio, determines body fat loss success during a 6-month randomized controlled diet intervention.” International Journal of Obesity (2017) doi: 10.1038/ijo.2017.220

出典元:Mykinsoラボ https://lab.mykinso.com/

 

プロフィール

野本 昌代

獣医師、大学院生。

野生生物好き。

臨床獣医師時代は主にウサギなどのエキゾチックアニマルを担当。

ジャングルやサバンナで保全や研究調査のボランティア、研究所のラボやフィールドで研究助手、そ

の他色々を経て、現在大学院で生理学の勉強中。