
手洗いの目的は殺菌か?除菌か?
これから寒さが厳しくなるにつれ風邪やインフルエンザにかかる危険も増します。感染予防には手洗いが大切ということから、神経質になって、頻繁に何度も手を洗ったり、長時間洗い続けたりといった人もいるかもしれません。さらに最近話題になった抗菌せっけんの問題もあります。あなたの手洗いは大丈夫ですか?
「せっけん」と「抗菌せっけん」、何が違う……?
あなたは毎日どんなせっけんを使って手を洗っていますか? ふつうの「せっけん」ですか? それとも「抗菌せっけん」ですか?
一般に「せっけん」といった場合の「せっけん」は、脂肪酸ナトリウムまたは脂肪酸カリウムという物質でできた洗浄剤のことだそうです。これらの「せっけん」は動物や植物の油脂を苛性ソーダや苛性カリで煮てつくられます。
それに対して「抗菌せっけん」というのは、殺菌成分が含まれたもので、「せっけん」という名称を使っているのですが、正式には「せっけん」ではなく医薬部外品としての「薬用せっけん」に該当するということです。いわゆる「洗浄剤の一種」であるということらしいです。
印象としてはふつうの「せっけん」より「抗菌せっけん」のほうが汚いバイ菌を殺菌してくれるので、より手が清潔できれいになるような印象があります。抗菌せっけんが清潔好きにとどまらず多くの人に人気なのもそのへんではないかと思われます。
でも実際は、抗菌せっけんにあまり「抗菌」の効果はないといった意見もあったり、使うことによる手肌の荒れやかぶれも指摘されているようです。
もともと皮膚には外部からの病原菌やさまざまなバイ菌の侵入を防いでくれるバリア機能があります。手肌が荒れたりかぶれたりするとこうした皮膚のバリア機能が損なわれ、病原菌が皮膚の内部に侵入しやすくなるというのです。
とはいっても普通のせっけんでも使い過ぎたり、洗い過ぎれば手肌が荒れる原因になります。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」ということです。
せっけんと抗菌せっけんの除菌効果は変わらない・・?
抗菌せっけんについては最近、アメリカでの販売禁止の措置が新聞やテレビで報道され、話題になりました。抗菌せっけんに含まれる19種類の殺菌剤には、普通のせっけんに比べてすぐれた殺菌効果があるとはいえないというものでした。このうちのトリクロサンとトリクロカルバンの2種類の殺菌剤には免疫機能に影響を与えるとか、抗生物質のきかない耐性菌が出現する可能性があるといったこともいわれているようです。
日本でも一部の商品にこれら殺菌剤が含まれる薬用せっけんが販売されていたようですが、薬用せっけんの成分をほかのものに切り替えるように国も対策を講じました。
手についた汚れや雑菌を洗い流すだけなら普通のせっけんで十分かもしれません。
せっけんには、抗菌せっけんのような殺菌や滅菌の効果はありませんが、雑菌を取り除く「除菌」はできます。手を洗ったときの除菌効果についての花王生活科学研究所の実験では、普通のせっけんでは95パーセント、抗菌せっけんでは98パーセントの効果があったということです。除菌に限ればどちらもその効果にほとんど差がありません。
風邪やインフルエンザを予防するには手洗いが大切・・毎年、この季節になるとお題目を唱えるようによくいわれます。
感染症にかからないようにするには殺菌や消毒が大切だとついつい思い込みがちですが、じつはバイ菌を洗い流すだけでもほとんど予防できることがわかっています。
あなたは手に付着したバイ菌を退治するとき、どちらの洗浄剤を選びますか?
抗菌せっけんによる殺菌ですか、それとも普通のせっけんによる除菌?
<参考URL>
*「抗菌せっけん FDA販売禁止成分 厚労省が切り替え促す」(毎日新聞)
http://mainichi.jp/articles/20161001/k00/00m/040/055000c
*「手洗いの常識“ウソ・ホント”」(毎日新聞)
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20151225/med/00m/010/004000c
*「石鹸百科」((株)生活と科学社)
http://www.live-science.com/honkan/basic/miwake01.html