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除菌、殺菌、滅菌、抗菌は逆効果。「きれい好き」は病気を招く?

「きれい好き」は病気のもと。なんとも皮肉な話ですが、行き過ぎた清潔好きは、逆に 病気を引き起こすという話、聞いたことがあると思います。体のため、健康のためを思って除菌や殺菌を行なっているつもりが、そのおかげで体に必要な菌まで も除去してしまうという、まさに本末転倒ともいえる困った事態。本当に清潔好きは健康の敵なのでしょうか。

 

バイ菌を悪もの扱いする日本

バイ菌を悪もの扱いする日本人の潔癖性。 抗菌グッズはいまでは生活の必需品となってしまったのかもしれません。下着や靴下、台所用品、文房具、タオル、トイレ用品など、私たちの身の回りは、ありとあらゆる「抗菌グッズ」であふれています。
多くの人は抗菌グッズには病気の予防効果があると思っているようですが、ほとんどメリットがないと考えられています。単なる「気休め」という専門家もいます。
 

ただ、こうした抗菌グッズの乱用によって、細菌が耐性をもってしまう危険があるといわれています。耐性というのは、病原菌が抗生物質など一定の薬物に抵抗力を示すことで、耐性菌の蔓延によって抗生物質が効かないといったことも起こり得ます。
細 菌とかバイ菌というと多くの人は「不潔」とか、病気になるといったイメージをもってしまいます。でも細菌やバイ菌には、人間にとって役に立つ善玉菌もたく さん存在します。常在菌といわれるもので、口、鼻、皮膚や内臓など全身に数多く生存しています。体中が細菌であふれているといってもいいかもしれません。 こうした常在菌は病原菌の侵入を防ぎ、免疫力を高め、健康を守っているといわれています。
 

ところが細菌やバイ菌をひとまとめにして悪もの扱いして、身の回りから遠ざける生活をしていると逆に健康を損なうことになりかねません。
「きれい好きな生活が行き過ぎると、人間に必要な微生物まで殺してしまい、病気になりやすくなってしまう」といったことを東京医科歯科大学の藤田紘一郎名誉教授はさまざまなメディアを通じておっしゃっています。
 

清潔好きな現代人の生活環境が、病気にかかりやすくしたともいわれます。手を薬用石けんで何度も洗うと、皮膚の常在菌が流されて皮脂も失われ、ドラ イスキンやアトピーを引き起こすと考えられています。すべすべとしたきれいな皮膚には皮膚常在菌というバイ菌がいて、皮膚の健康を守っているのです。
 

少し汚いくらいが健康にはちょうどよい

体の中でもっとも多くの細菌が存在するのは腸です。いまではすっかり有名になった腸内細菌ですが、腸の中には500〜1000種類の細菌が繁殖して いて、その数は500兆〜1000兆個にも及び、重量は1キロ〜1.5キロといわれます。人間の細胞の数が60兆個といわれますから、腸内細菌はその10 倍以上の数です。これらの腸内細菌は、免疫や代謝に深くかかわっています。腸内細菌が多ければ多いほど、免疫力が高まって、がんやアレルギーになりにくく なるといわれています。
 

赤ちゃんを見ているとバイ菌だらけの床をハイハイして、そのまま指をしゃぶったりします。また、床に落ちた食べものを平気で口に運んで食べていま す。テレビのリモコンや携帯電話などをしゃぶって遊んだりもします。こうしていろいろなバイ菌を体内に取り入れることによって免疫力を高めているのです。 でもそれによって下痢をしたり、嘔吐したり、病気になったりはしません。こうした遊びを通して腸内細菌を取り込み、免疫力を高め、感染症への抵抗力を養っ ているというわけです。
 

私たち日本人は世界一清潔好きといわれますが、過度な除菌や殺菌は免疫力を弱めるだけかもしれません。腸内細菌を体内に取り込んだり、減らさないためにも清潔もほどほどにしたほうがよさそうです。床やテーブルにこぼれたご飯を拾って食べるくらいがちょうどよいのです。
 

汚すぎるのは問題ですが、清潔すぎるのはもっと問題かもしれません。過剰なまでの除菌生活によって、体を守っている常在菌を洗い流し、病気になったのでは本末転倒。手の洗い過ぎやお風呂での石けんやシャンプーの使い過ぎ、洗い過ぎにはくれぐれも注意しましょう。
 

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。