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よくかんで食べることは大事。でも、硬いものをかむと歯は丈夫になる?

よくかむ食べ物をよくかんで食べるのが健康にいいのは誰でも知っています。ところが日々の食事はファーストフードにレトルト食品、インスタント食品など、やわらかいものが中心といった人も多いのではないでしょうか。

 

昔から「硬いものを食べないとあごが発達しない」「歯を丈夫にするには硬いものを食べないといけない」ということもよくいわれています。でも「硬いもの」ってなんでしょう。

「硬いもの」をかむと本当に歯やあごが健康になるのでしょうか。 

 

現代人のそしゃく回数は理想の半分以下

 そしゃくはあごの成長や発達はもちろん、虫歯の予防、脳の活性化と認知症の予防にはとても大切だということはいまでは誰もが知るいわば常識です。

 私たちの祖先、縄文時代の日本人は粟や稗などの雑穀を主食にしてきました。この時代の人たちは1回の食事で4000回以上もそしゃくしていまし た。以下、鎌倉時代で2600回、江戸時代の初期で1500回、戦前でも1400回もありました。それが現代ではわずか620回です(参考資料:『よく噛 んで食べる 忘れられた究極の健康法』(斎藤滋著・NHK出版)。私たちが1回の食事でするそしゃく回数は1500回が理想とされています。

 ところが現代の食事は、そしゃくをしなくても簡単に飲み込めるものがほとんどです。たとえばハンバーグやカレーライス、ラーメン、スパゲッティ、ソバ、うどんなど、ランチで人気のメニューはあまりかむ必要がない食事がずらりと並びます。
 

硬いものをかんでも歯やあごは鍛えられない

そしゃくを促すためには「硬いもの」「かみごたえのあるもの」を食べるのがいちばんとよくいわれます。そんなことから、なかにはせんべいをバリバ リかんだり、ナッツ類をボリボリ食べたり、殻付きのナッツをそのままかんで食べるとか、クルミの殻を歯で砕くといった強者もいます。また、イワシやサンマ、鮎は頭から骨ごと食べる、カニの甲羅を歯で砕く、鶏や豚肉の軟骨をボリボリ噛み砕くといった人もいます。その結果、大切な歯を折ったり欠いてしまったという悲劇に見舞われたりします。

 

硬いものを食べるとあごや歯が丈夫になるといった単純な思い込みが、こんなことをする理由なのでしょうが、子どもと違って歯やあごの成長が完了し た大人がこうした硬いものをかんでも歯やあごが丈夫になるとは考えにくいです。むしろ歯やあごに過重な負担がかかって歯を壊したりあごを傷めてしまいかね ません。やめたほうが無難です。

硬いものをかむとあごや歯が丈夫になるというのは、痛いくらいの運動でないと体を鍛えられないのだといった誤った考えに似ています。体が悲鳴を上げるほどの過重なトレーニングが健康にいいとはいえません。

 

要は「そしゃく」の問題なのです。
「何を」かむかではなく、「何回」かむかということです。上に紹介した殻ごとのナッツとかクルミ、カニの甲羅というのは論外です。
何を食べるにしてもそしゃくは大切です。1口30回のそしゃくが理想といわれます。そしゃくすることで脳の満腹中枢が刺激されて食べ過ぎを防ぐこともできます。

 

かむ回数を多くするには、ハンバーグやカレーライスといった「かみごたえのない」食べ物だけは避け、ゴボウや人参などの根菜類やホウレンソウなどの葉菜類などを「かみごたえのあるもの」としてメニューに取り入れるのがよいでしょう。
硬いもので歯やあごが鍛えられるなどとはくれぐれも考えないように・・・。

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。

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