プラスコラム
PLUS COLUMN

更年期からジワジワと進行していく病気にご用心

女性の体を守り健康を支えているのがエストロゲン。更年期からはエストロゲンの低下が背景にあって、ジワジワと増えてくる病気にも注意が必要です。

更年期障害を起こすさまざまな要因

女性ホルモンの分泌が減ってやがて閉経を迎える時期が「更年期」。エストロゲンの低下は誰にでも等しく起こるものですが、この時期、さほど問題なくやり過ごせてしまう人もいれば、寝込むほどつらい症状に悩まされる人もいます。
でも、なぜ症状の出方や程度に個人差があるのでしょうか。
ひとつは、ホルモン変化に対する感受性の違いがあります。


妊娠した時にするとつわりの重い人と軽い人がいるように、ホルモンの変化への感受性は人それぞれ違っています。エストロゲンの低下に対しても体が敏感に反応する人やまったく感じない人もいて、こうした要素が症状の現れ方の違いになるでしょう。
さらに、更年期のホルモン変化が小さなものでも、それが大きなものに感じてしまう体や心の状態もあると思います。たとえば親の介護とか夫の病気などですごく頑張っているときは、更年期症状は出ないのに、親が亡くなったり夫が退院するなどして緊張が解けたときに、いきなり調子が悪くなる人もいます。


本来、私たちの体は、緊張と弛緩というふたつの相反する働きを持つ自律神経がバランスよく働いていますが、緊張状態がずっと続いていると、あるときそれが途切れたときに自律神経が一気にバランスを崩して体のあちこちにひずみが出てきてしまうのです。
よく更年期症状が重い人は「気の持ちようだ」といわれがちですが、そんなことはありません。更年期障害は、エストロゲンの低下に加えて、その人の気質や体質、その人を取り巻く環境やストレスなどが複雑に絡み合って起こるものです。

エストロゲンのお守りがなくなると、その人の体質的に弱い部分に不調が出てきます

ところで、卵巣から分泌される女性ホルモンは、生涯でわずかティースプーン1杯ほどしかありません。けれども、その働きぶりはめざましいものがあります。女性がこんなに長生きで、しかも男性よりも疾患が少ないのは、すべて女性ホルモンのおかげなのです。
また、男性のもつ染色体のY遺伝子は「脆弱な」という形容がつくほど弱い遺伝子ですが、女性はXXという強いX遺伝子をふたつももっています。そして、種の保存のためにも、妊娠・出産が可能な期間、つまり卵巣機能が働いている間は、女性ホルモンが女性の体を守り、生命体として強く保っています。


だからこそ、エストロゲンの恩恵にあずかれなくなる更年期以降は、もともと持っている体質的に弱い部分にトラブルが起こりやすくなります。
それまではあまり見られなかった糖尿病や高血圧、動脈硬化などの生活習慣病が、更年期以降は男性並みに増えてきます。
また、更年期以降は骨の老化も始まって骨粗しょう症も増えてきます。もともと、女性は男性に比べると骨や筋肉、関節などの運動器が弱いのですが、卵巣から分泌されるエストロゲンがなくなることで、骨がカスカスになり関節も炎症をおこしやすく、筋肉も弱くなっていきます。
脳の働きも女性ホルモンがかなり守っていますから、女性ホルモンがなくなるとアルツハイマーが増えるということもいえます。
今まで健康に自信があった人も、過信は禁物。更年期からは、今まで以上に積極的な健康管理が必要なのです。

プロフィール

対馬 ルリ子 先生
産婦人科
対馬 ルリ子 先生

日本産婦人科学会認定医、日本思春期学会理事、日本性感染症学会評議員、女性医療ネットワーク発起人代表。

2003年、女性の心とからだ、社会とのかかわりを総合的にとらえ、健康維持を助ける女性専門外来をすすめる会「女性医療ネットワーク」を設立。『「女性検診」がよくわかる本』(小学館)ほか著著も多数。近著に『娘に伝えたいティーンズの生理&からだ&ココロの本』(かもがわ出版)がある。