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受動喫煙で虚血性心疾患の発症リスクが2倍?

受動喫煙によってタバコを吸わない人の健康がおびやかされているといわれます。とくに喫煙者の夫から妻へといった家庭での受動喫煙による影響が指摘されています。

受動喫煙によって高まる病気の発症リスクとは?

 

受動喫煙が原因の死者数は年間15,000人

 いまではすっかりなじみの言葉になった「受動喫煙」ですが、厚生労働省の説明によれば「室内又はこれに準ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされること」をいいます(「職場のあんぜんサイト:受動喫煙」)。

 本人が望まないのに、タバコの煙を半ば「強制的に吸わされること」と言い換えることもできそうです。

 厚生労働省の研究班の報告によれば、受動喫煙によって狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患と肺がんで亡くなった人は年間6,900人余りと推計されています。そのうち約半分の3,600人が職場での受動喫煙によるものとみられています。

 さらに脳卒中でも約8,000人、乳幼児突然死症候群(SIDS)でも約70人が亡くなっていて、年間にあわせて約15,000人もの人が受動喫煙によって亡くなっていると推計されています。

これはたとえば交通事故の年間死者数2,663人(警察庁/2024年)の6倍近い数字です。

 

受動喫煙の被害を受けた人は約3割

 受動喫煙は「ヒトに対して発がん性がある化学物質や有害大気汚染物質への曝露である」といった指摘がWHO(世界保健機関)をはじめ、世界の多くの研究機関からの報告にもあるようです。

受動喫煙がさまざまな病気を引き起こすことは科学的にも明白といえるでしょう。

 運悪く受動喫煙にでくわす機会は日常、どこにでも存在します。『国民健康・栄養調査(令和6年)』によれば、もっともその割合が高い場所は「路上」(28.6%)でした。次いで「職場」(16.9%)、「飲食店」(16.7%)となっています。気になる「家庭」での受動喫煙は4.4%でした。

 また、「家庭や職場、飲食店」で受動喫煙に遭ってしまう割合は全体の26.7%。年齢別では20歳代がいちばん多く、男性で46.0%、女性が47.5%とほぼ半数でした。30歳代では男性が39.6%、女性は38.2%など、若い世代の望まない受動喫煙の割合が高いのが目立ちます。

40歳代も高い割合を示し男性が41.8%、女性が32.8%でした。

 

受動喫煙は女性の循環器疾患の発症リスクに?

 夫からの受動喫煙と女性(妻)の虚血性心疾患、脳卒中など循環器疾患の発症リスクとの関連について調査した国立がん研究センターの研究があります。

研究は40~59歳のタバコを吸わない約2万4,000人の女性を対象に調べたものです。

それによると、「夫が現在タバコを吸っていない(過去も現在も非喫煙者、もしくは過去喫煙者で現在非喫煙者)」のグループを基準にした場合、「夫が現在喫煙している」グループの女性の虚血性心疾患の発症リスクは2.02倍、全循環器疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中など)の発症リスクは1.25倍、脳卒中の発症リスクは統計学的に有意ではないものの1.18倍高い傾向を示したといいます。

 また、「夫が過去も現在も非喫煙者」を基準とした場合、「夫が現在喫煙者」のグループの女性の虚血性心疾患の発症リスクは2.31倍、「夫が過去喫煙者だったが現在非喫煙者」の場合は、統計学的に有意ではないものの女性の虚血性心疾患の発症リスクは1.26倍でした。

 受動喫煙の健康に与える影響の重大性がうかがえます。

 

加熱式タバコも受動喫煙と無縁とはいえない?

受動喫煙による有害物質への曝露は「家庭」に限ったことではありません。

前述の厚労省の統計にもあるように職場や飲食店、路上、公園などのほか、車の中、共同住宅のベランダなど至るところに存在しています。

タバコによる健康への悪影響は、喫煙する本人の健康リスクに止まらず、家族や同僚や友人、隣人、あるいは見ず知らずの他人をも巻き込む公衆衛生の問題でもあるといえるかもしれません。

とはいえ、なかには「私は紙巻きタバコでなく、もっぱら加熱式タバコだから大丈夫」と受動喫煙を他人事のように思っている人もいるでしょう。

 でも残念ながら加熱式タバコも受動喫煙のリスクと無縁とはいえないようです。加熱式タバコの受動喫煙について調べた研究もあり、それによると受動喫煙した家族の尿からも紙巻きタバコ同様、量は少ないもののニコチン代謝物が検出されたということです。

加熱式タバコでも受動喫煙のリスクから逃れられないと多くの専門家が指摘しています。解決策はやはり「禁煙」の2文字しかないようです。

 

<参考>

*「多目的コホート研究(JPHC Study)非喫煙女性における受動喫煙と循環器疾患発症のリスクについて」(国立がん研究センター)

*「安全衛生キーワード・受動喫煙」「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」(厚生労働省)

*「新型たばこなら、大丈夫? は誤解です」(公益社団法人 日本医師会)

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。