
疲れた心と体は森林浴で癒される?
森の中に身を置くと心が安らぎ、リラックスした気持ちになります。
日本が発祥といわれる森林浴には、心身に及ぼすさまざまな健康効果があるといいます。
森にはどんな不思議な作用がひそんでいるのでしょうか?
「森林浴」は日本で生まれた?
今では多くの人がふつうに話している「森林浴」。北欧が発祥の地のように思うかもしれませんが、実は日本発祥の言葉で、1982年に日本の林野庁が提唱したものだそうです。森の自然を五感で感じながら散策して健康になろうという趣旨だったようです。
国土の約7割を森林が占めている日本ならではの発想ではないでしょうか。海外でも「Shinrin-yoku」として注目されているそうです。
森林浴はその後、医学的な見地からその効果を最大限に活用しようとする「森林セラピー」にもつながっていきます。
でも、そもそも森林を散策したり、ハイキングしたり、トレッキングをしたりといったことから、ただぼんやりと森の中に身を置くだけといったような森林浴でも、健康にいいといわれる理由はなんでしょうか?
森の中の「いい香り」の理由は?
森の中を歩いたり、木漏れ日を浴びたりすると清々しい気持ち、心が安らぎ、リフレッシュされるようなやさしい感覚に包まれます。
森の中の「空気」に、その大きな理由があるようです。
「フィトンチッド」という名称、耳にしたことありませんか? 樹木などから発散される揮発性の芳香物質のことで、森はこのフィトンチッド(主にテルペン類)に満ちているといいます。
森に入るとなんともいえないいい香りがする理由は、これだったのです。
フィトンチッドは、自由に移動できない植物が病原菌からの感染や葉っぱを食べようとする昆虫から身を守るために自らつくり出した物質です。
微生物や昆虫には迷惑な物質ですが、人間にはとても有益な働きをしてくれるといいます。
森に入ると、なぜ気持ちいい?
森林浴の効果でよくいわれるのはストレスの緩和。林野庁の調べによると、代表的なストレスホルモンである唾液中のコルチゾール濃度が、森林の中では都市に比べて13%下がったそうです。
また、リラックス状態を示す副交感神経の活動が、森林の中にいて森の風景を眺めているだけで約1.5倍、森の中を歩くと約2倍、都市の場合に比べて、それぞれ高まったということです。
さらに森林浴によって、白血球に含まれるリンパ球の一種でウイルスに感染した細菌や一部のがん細胞を攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞が、都市部に比べて8.2%活性化したといいます。なかにはNK細胞が森林浴後1日で27%、2日後で53%も活性化したというデータもあるようです(環境省「データで見る 国立公園の健康効果とは?」より)。
帰宅後も一定期間は、そうした森林浴による効果が続くといいます。
森でなくても森林浴はできる?
森林浴にはこれといった決まったやり方があるというわけではなさそうです。例えば、近所の神社や公園のベンチで樹木を眺める、鳥や昆虫を探したり、鳥のさえずりに耳を傾ける、枝が風に揺れる音を聞くといったほか、落ち葉の感触を確かめたり、土の匂いを嗅いだりといったことも森林浴と考えていいようです。
森林浴をするときは、ハチやダニ、ブヨなどから身を守るために、長袖、長ズボンはもちろん、虫除けスプレーなどの携行は必須といいます。
クマとの遭遇にも注意が必要とも。低い山といえども油断は禁物です。
また、森林総合研究所の研究によれば、自然の森の中でなくても、屋内で森林の風景や音、香りなどを再現した「デジタル森林浴」でもリラックス効果、疲労回復効果があることが分かりました。
副交感神経が上昇して心拍数が低下する、気分が改善することなどが明らかになったといいます。
デジタル森林浴は家庭でも応用できそうです。ストレス過多気味の人、出不精の人や多忙で外出がままならない人は、試してみる価値ありかも?
<参考>
*「森林の有する多面的機能について」(林野庁)
*「データで見る 国立公園の健康効果とは?」(環境省)
*「『デジタル森林浴』が日々のストレスを低減する‼︎」(国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所)
*「日本が提唱し始めた“森林浴”を体の芯まで享受するには?|読むらじる」(NHKラジオ2024.11.24放送)