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大人のにきび

「思春期にきび」は、Tゾーンの皮脂の多い場所にできるのに対して、「大人のにきび」は、頬やフェースラインなど皮脂の分泌が少ないところにできることが多いのが特徴。みなさんの中にも、大人のにきびで悩んでいる方が多いのではないでしょうか。

思春期にきびと同じケアをしてはダメ

本来、頬などは、角層がおでこや鼻の半分ほどしかなく皮脂分泌が少ないところ。大人のにきびは、皮脂がおもな原因でできる10代の思春期にきびと違って、洗顔の仕方が自分に合っていなかったり、疲れやストレス、体調が悪いときやホルモンバランスの崩れ、食事など、さまざまな原因がからみあって起こります。
ですから、思春期のにきびと同じケアをしていてはダメ。正しい知識を身につけて、きちんと対処しましょう。

にきびの原因「アクネ棹菌」の正体は……

そもそもにきびの発生に深くかかわっているのが、アクネ棹菌という細菌です。アクネ棹菌は、にきびの原因になる菌として悪者にされがちですが、実は皮膚の常在菌のひとつで、誰でも持っている菌なのです。
え、皮膚にも細菌がいるの? と驚かれる方がいるかもしれませんが、腸内と同じように皮膚の表面にはたくさんの常在菌がすみついています。
常在菌は、ふだんは角質を栄養として天然のクリームである皮脂をつくって皮膚のバリアを築き、紫外線や乾燥、有害物質などからお肌を守ってくれています。その代表的なものが、表皮ブドウ球菌やアクネ棹菌。これらの常在菌のおかげで、私たちの肌は健康に保たれていて、しっとりとつやつやに。つまり常在菌は美肌づくりのお手伝いをしてくれているのです。

洗顔のしすぎがにきびをつくる

ところが、何らかの原因でこの常在菌のバランスが崩れると、うまく皮脂をつくれなくなって皮膚の抵抗力が落ちてしまいます。そうなると、これまで皮膚を守ってくれていたはずの常在菌が、悪さをする側にまわってしまうのです。
常在菌のアクネ棹菌が、暴れまわってできるのがにきび。そのいちばんの原因は、洗顔のしすぎにあります。洗顔は、守りの皮脂を残して汚れだけを洗い流せばいいのですが、ゴシゴシ洗いをしたり、洗顔料やクレンジング剤を使って1日何度も洗っていると、必要な皮脂まで洗い流してしまいます。そしてその結果、皮膚の常在菌のバランスが崩れてしまうのです。
「にきび対策は、洗顔料を使ったこまめな洗顔にある」と勘違いしていると、大人のにきびはどんどん悪化していきます。正しい洗顔法(Vol.6「間違った洗顔法、していませんか?」参照)を覚えて、肌のうるおいを保つ常在菌を味方につけましょう。

大人のにきび対策は「保湿」がキーワード

ところで、にきびができたときにクリームや乳液をつけるのはNGだと思っていませんか? でもこれは大きな誤解です。
大人のにきび対策に大事なのは「保湿」のひとこと。ちゃんと保湿して皮膚を守らないと、皮膚の常在菌のバランスを保てないのです。洗顔後は化粧水でしっかりとうるおいを与え、そのあとは乳液やクリームでしっかりとフタをして、水分が肌から蒸発するのを防ぎましょう。

にきびがあるときも、お化粧は必要不可欠

もうひとつ、大人のにきびケアに関して誤解が多いのがお化粧のこと。昔は、にきびができたときは、お化粧をしてはいけないといわれていました。けれども、お化粧をすることでにきびができるわけではありません。それだけではなく、ノーメークでいるよりもかえってお化粧をしているほうが、紫外線からお肌を守ることができます。
強い紫外線を浴びると皮膚の常在菌は生きていけません。日焼け止めとファンデーションをきちんと塗って、万全の紫外線対策をたてましょう。
ファンデーションに関しては、にきびができているときには、肌に定着して毛穴を詰めるようなリキッドタイプのものよりも、パウダータイプのものがおすすめです。

胃腸の調子を整えることも、大事なポイント

昔からよく、皮膚は内臓の鏡といわれます。実際、胃腸の調子が悪いときは、にきびができたり悪化するなど、皮膚の調子が悪くなります。ですから、胃腸の調子を整えることも、大人のにきびケアの大切なポイントです。
それには、疲れやストレスをためないこと、睡眠不足に気をつけること、バランスの良い食事を心がけて、ゆっくりよく噛んで食べることを心がけましょう。また、ふだんから十分に水分をとることも大事です。


皮膚細胞がたっぷりと水分を抱えているときは、肌がパンと張ってハリがありますが、脱水状態になると、生命を維持するために必要なところに体内の水分が移動していくので、皮膚がカサカサになってしまいます。
もちろん冷暖房など、空気が乾燥したところにいるときも、皮膚表面からどんどん水分が蒸散していってしまうので要注意。
これからの暑い季節はとくに、脱水になる前に水分補給をたっぷりと。のどが渇いていなくても、30分に一口は水分を補給しましょう。なお、濃い緑茶やコーヒーは利尿作用が強いので、水分補給には適しません。なるべく水や麦茶などを常温やあたたかくして飲むとよいでしょう。

正しいスキンケアと生活の見直しで多くは改善します

にきびができると、あわてていろいろなスキンケアを試してみることが多いもの。でも、過剰なスキンケアがかえってにきびを悪化させてしまうことが多いのです。にきびが痛むときには、保冷剤などを使って冷やし、まずは正しい洗顔法とスキンケアでお肌のうるおいを守ることを心がけてください。食事や睡眠など、生活習慣を整えることでも、大人のにきびが改善することが多いものです。
それでもよくならないときは、皮膚科を受診してください。よく自分でにきびをつぶしてしまう人がいますが、にきびあとが残ったりすることも多いので注意してください。

プロフィール

平田 雅子 先生
皮膚科医
平田 雅子 先生

私のクリニック目白 院長 日本大学医学部卒。皮膚科専門医。

東京医科大学、同大学八王子医療センターを経て、2003、10月から現職。
女性専門医療の第一線で活躍中。
女性医療ネットワーク理事。
日本医師会産業医。
女性の悩みをきちんと聞くことを心がけた診療に定評がある。