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「つくり笑い」でも効果あり――笑って幸せになろう

がんを抑える重要な働きをもつNK細胞を活性化させたり、心臓発作のリスクを低減させたり、糖尿病、認知症の予防など、前回はさまざまな研究からあきらかになりつつある「笑いの健康効果」についてお話ししました。
 

ストレス発散、若返り効果にも一役買うなど、笑いは心にも体にもいいことづくめ。おおいに笑いながら毎日を過ごしたいものですが、社会人になればストレスも多くてそうそう笑いのタネも転がっていません。1日数回笑えればいいほうだ、という人も多いかもしれませんね。
笑えるか笑えないかは周囲の状況や人しだい。つくり笑いをしたって意味ないし……そんなふうに思っていませんか?
でも、実は「つくり笑い」でも、十分に笑いの効果を得られるそうなのです。
なぜなのでしょうか?

 

つくり笑いでも幸福ホルモンが分泌される

専門家によると、笑顔の表情筋が動くと、その情報が脳に伝わって、脳が「自分は笑っている」と勘違いをし、心を楽しくする脳内物質のセロトニンやドーパミンがさかんに分泌されるそうです。
 

つまり、つくり笑いをした場合でも、笑顔をつくる筋肉が動くことで、その情報が脳に伝わる→快感・幸福ホルモンが分泌される→楽しい感情が徐々に湧いてくるというわけです。
上司に叱られたり、ミスをして気持ちが凹んだときこそ、鏡に向かって思いっきりつくり笑顔をしてみるといいかもしれませんね。
 

楽しい感情は周囲の人にも作用する

ところで笑いには、笑うことでさらに楽しい気持ちになって、笑みがこぼれてくるといった循環作用があるといいます。また、あくびが周囲の人にうつ るように、楽しい感情も他人に作用するという伝播(でんぱ)作用があるとのこと。これは脳のミラーニューロン(Mirror neuron)の働きによるもの。 ミラーニューロンとは、他人の行動を見て、自分がやっているかのように感じる神経細胞のこと。鏡のような反応をするの で、ミラーニューロン(鏡の脳細胞)と呼ばれるそうです。
 

そういえば、不機嫌な人と一緒にいるとこちらまで不機嫌な気持ちになってきたり、逆に相手が笑顔でいると自分も笑顔になったりしますよね。笑顔をみせることは周囲の人を楽しくさせるという素晴らしい効果もあるようです。
 

デュシェンヌ・スマイル(本物の笑顔)が幸福を連れてくる?

さて、最後に笑顔の研究について紹介しましょう。
本物の笑顔は口角が上がり、目じりにカラスの足跡のようなシワができるのが特徴で、「デュシェンヌ・スマイル」(最初にこれを表現したフランスの神経学者にちなんで名づけられた)というそうです。
 

このデュシェンヌ・スマイルに関して興味深い研究があります。
米カリフォルニア大学の心理学者らによって行われた研究で、ある女子大学の 卒業アルバムの写真を分析し、30年後にどのような人生を送っているかを調査したところ、デュシェンヌ・スマイルの度合いが高かった女性は、そうでない人 と比べて、30年後は結婚生活が順調でその満足度も高かったそうです。さらに、心身ともに健康である傾向も強かったといいます。
 

笑いは「健康」だけではなく「幸福」も連れてきてくれるのかもしれませんね。
「幸せだから笑うのではない。笑うから幸福なのだ」これは、フランスの哲学者のアラン(1868-1951)の「幸福論」の中の有名な一節。
「おかしくもないのに笑えない」などといわずに、まずは笑顔をつくってみることが大切なようです。

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。

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