若い世代に多い、卵巣のう腫
卵巣は、親指の先(うずらの卵)、2~3cm大ほどの小さい臓器ながらも卵子を排出したり、女性ホルモンを分泌するなど女性の健康のリズムにかかわる重要な働きをしている臓器です。一方で、体の器官の中ではもっとも大きな腫瘍ができやすい臓器でもあります。今回は、10代、20代と若い世代にもよくみられる良性の腫瘍「卵巣のう腫」についてお話します。
卵巣にできる腫瘍の8割は良性
卵巣には、膨大な数の原始卵胞があり、排卵のたびに被膜(卵巣の表面の皮)が破れて傷つき、それを修復するというめまぐるしい変化を繰り返しています。それゆえに卵巣は体の中でもとくに腫瘍ができやすいところなのです。
卵巣にできる腫瘍はさまざまですが、大きく分けると良性の「卵巣のう腫」と、悪性の疑いが強い「充実性腫瘍」とに分けられます。このうち、もっとも多く見られるのが卵巣のう腫で、卵巣腫瘍全体の約8割を占めています。
「のう腫」の「のう(嚢)」は、袋という意味で、卵巣の中に袋ができて液体がたまってのう胞状の腫瘍になったもので、さわるとブヨブヨしています。一方、充実性腫瘍というのは、中にコブのような組織がつまったかたまりで、良性のものと悪性のもの、その中間のものがあります。
卵巣のう腫は、中身によって分類されます
良性腫瘍である卵巣のう腫は、腫瘍にたまった中身によっておもに次の3つに分類されます。なぜ、卵巣にこのようなのう腫ができるのか、はっきりした原因はわかっていません。
■漿液(しょうえき)性のう腫
漿液というのは、サラサラした液体のこと。卵巣のう腫の中でもっとも多く見られるタイプです。
■粘液性のう腫
漿液性のう腫の次に多く見られるもので、ネバネバした粘液がたまります。
■皮様(ひよう)のう腫
中身はどろどろした脂肪や髪の毛、歯、骨などが入っています。そのため、手術後に内容物を患者さんに見せるとたいていの人は驚きます。生まれなかった赤ちゃんが出てきたのではと心配する人もいますが、そういうわけではありません。
皮様のう腫の中身は、髪の毛や皮膚などをつくる細胞が勝手に増殖してたまったものです。卵巣は人間のモトをつくる臓器ですから、こうしたものが中に出てきても不思議はありません。
ところで、液体状のものがたまった腫瘍がのう腫ですから、中身が髪の毛や脂肪などがたまったものを、なぜ「のう腫」というのか、不思議に思う方もいるかもしれません。でもおなかの中では体温が高いため、卵巣内ではサラサラした状態になっているのです。ですから、「のう腫」であることに間違いはありません。皮様のう腫を取り出して室温にさらすと、内容物はかたまるわけです。
がん検診や妊娠検査で偶然見つかるケースも多いものです
卵巣のう腫に限らず、卵巣にできる腫瘍は、大きくならないとなかなか症状があらわれません。
症状が現れるのは、のう腫が8cmとか10cmほどの大きさになってからです。卵巣が握りこぶしほどの大きさになると、おなかがせり出してスカートがきつくなったり、おなかが張ったようになったり、下腹部にしこりが触れるようになります。また、たまたま婦人科や内科で超音波検査を受けたときや、妊娠時の超音波検査で見つかることも多いものです。
ときには、茎捻転を起こして救急車で病院に運ばれて、はじめて卵巣のう腫に気づくケースもあります。
茎捻転というのは、なんらかのきっかけで、卵巣が根元からねじれてしまうことで、突然腹部に激痛が走り、ショック状態にさえ陥ることもあります。
正常な大きさの卵巣は、2~3cmほどの小さな臓器で、太さ1cmほどのじん帯に支えられていますが、卵巣に腫瘍ができて大きくなると、体の動きによって茎(じん帯)の根元の部分がくるりとねじれてしまうのです。そうなると、卵巣へ血液が流れなくなって、ねじれた先の部分が部位が壊死してしまうことがあります。そのため、茎捻転を起こした場合は緊急手術が必要になります。
のう腫が大きい場合は、手術が必要です
卵巣の腫れは、内診や触診、超音波検査などによってわかります。超音波検査で、卵巣腫瘍の大きさや内容物の種類などかなりの情報がえられますが、さらに血液検査で腫瘍マーカーを調べて、良性か悪性かをしぼりこんでいきます。
腫瘍マーカーというのは、腫瘍の組織から分泌される特定の物質をいいます。卵巣がんのチェックではCA-125、CA19-9などの腫瘍マーカーが用いられますが、子宮内膜症や良性の卵巣のう腫でも数値が上昇します。そのため、卵巣がんが疑わしい場合は、手術で腫瘍を取り出して、組織の病理検査をして診断をつけます。
超音波検査などであきらかに良性が予想され、のう腫が小さい場合には経過を観察します。卵巣のう腫と思っても経過観察をするうちに、自然に消失してしまうことがあるからです。しかし、卵巣の大きさが5~6cm以上の場合には、茎捻転を起こすおそれがでてくるので、手術を検討します。
最近は、腹腔鏡手術が行われることも多くなりました。腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて傷が小さくてすみ、傷跡も目立ちません。また、おなかを大きく切らないのでからだへの負担が少なく手術後の回復が早いのも特徴です。
一般に、のう腫に悪性の疑いがまったくなければ、卵巣は残してのう腫だけをくりぬく手術をします。のう腫を取っても卵巣の正常部分が残っていれば、卵巣の機能は残り、妊娠やホルモン分泌にも影響はありません。
ただし、茎捻転を起こした場合は、ねじれた部分で血流障害起こして組織が死んでしまうために、卵巣を残すことはできません。卵巣ごと摘出する手術が行われます。
妊娠中の手術は、ちょっとやっかいです
妊娠中に卵巣のう腫が見つかる場合もあります。基本的に妊娠中は手術を行いませんが、のう腫が5~6cm以上ある場合は茎捻転を起こすことがあるので、やむなく妊娠中期に手術をすることがあります。
妊娠初期は、赤ちゃんに影響があるので麻酔をかけられませんし、胎盤がまだ不安定なので、流産につながるおそれがあります。また妊娠後期になると子宮が大きくなるため、卵巣が骨盤の奥に入ってしまい手術がしにくくなります。さらに子宮が大きくなるときに、卵巣がひっぱられて茎捻転を起こす危険もでてきます。そのため、手術を行う場合には妊娠14週~16週くらいに手術をするのが一般的です。この場合は、腹腔鏡手術は行えませんから、開腹手術になります。
発見の決め手は婦人科検診。10代から積極的に受けましょう
卵巣の病気は、自覚症状が出にくいために、発見が遅れがちです。とくに若い世代は、婦人科の病気とは無縁と考えがちですが、卵巣のう腫は若い世代に多い病気。高校生や大学生で、卵巣のう腫から茎捻転を起こして病院に運ばれるケースもまれではありません。
早期発見・治療のためにも10代のうちからぜひ婦人科検診を受けて、卵巣の腫れがないかを超音波検査でチェックしてもらってください。
超音波検査には、腟から挿入して調べる方法(経腟超音波検査)とおなかの表面にあてて調べる方法(経腹超音波検査)があります。
性経験がない人は、経腹超音波検査でも卵巣の腫れがチェックできますので、安心して、気軽に検査を受けてください。