若い世代に増えている子宮頸がん
早期のうちに治療すればほぼ100%治るといわれる子宮がん。初期のうちは自覚症状がほとんどないために、検診を受けて早期発見・治療をすることがなによりのがん対策です。
子宮がんは、発生する場所によって2つの種類に分けられます。
ひとつは、子宮頸がんで、子宮の入り口付近の子宮頸部の粘膜面にできるがんです。セックスとの関係が深く、性行為によってうつるHPV(ヒトパピローマウイルス)の中の特殊な型に感染すると、子宮頸がんの引き金になりやすいことがわかっています。
一方子宮体がんは、子宮の内側を覆っている子宮内膜の粘膜面にできるがんです。ホルモンバランスの異常が原因で起こると考えられていて、子どもをたくさん産むと子宮体がんにかかるリスクが減ることがわかっています。
統計上では子宮頸がんと子宮体がんが「子宮がん」として一緒にされることが多いのですが、この2つは発生する場所も原因もまったく違う病気です。
今回は、子宮頸がんのお話をします。
子宮頸がんは20~30代の若い世代に急増中
子宮頸がんは、おもにセックスの際に感染するHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因であることがわかっています。
HPVはありふれたウイルスで、セックスの経験のある女性の80%が一度はこのウイルスに感染すると考えられています。多くの場合は本人のもつ免疫力によってこのウイルスが排除されますが、リスクの高いタイプのHPVの持続感染を起こすと、がんを引き起こします。
また、HPVにはいくつものウイルスの型がありますが、すべての型が子宮頸がんの原因になるわけではありません。問題となるのは、子宮頸がんを発症しやすいハイリスクタイプのHPV。ハイリスクタイプには、16型、18型がありますが、日本人の場合、52型や58型が子宮頸がんと関係があるケースもみられます。
最近子宮頸がんは20代~30代に急増しているのが特徴です。
性体験があれば10代でも毎年必ず子宮頸がん検診を
子宮頸がんは、定期的に検診を受けていれば、がんになる前の状態(上皮細胞が変化している=異形上皮)の段階で見つけることができます。
またがんに移行していても、がんが上皮のうちにとどまっている早期がん(上皮内がん=0期)であれば、ほぼ手術によって100%治癒し、妊娠・出産のために子宮を残しておくことも可能です。
子宮頸がんは、進行してくると不正出血やおりものの増加、尿の出が悪いといった症状が出てきますが、異形上皮から0期まではまったく自覚症状がありません。それだけに、定期的に検診を受けて早期に発見し、治療につなげることがとても大切です。
子宮頸がん検診は、自治体で公費で受けられますが、20歳以上の女性を対象としています。性体験のある人は、10代でも年に1回婦人科で定期検診を受けることをおすすめします。自己負担になりますが、数千円で受けられます。
最新の細胞診検査では、感染しているHPVのタイプもわかります
日本で一般的に行われている子宮頸がん検診は、細胞診といって、綿棒などで子宮の入り口付近から採取した細胞をスライドガラスにこすりつけて、付着した細胞を顕微鏡で見て判定します。
最新の子宮頸がん検診では、細胞診に加えてHPV検査といって、自分がどの型のHPVをいくつ持っているかも調べることができます。このことによって、子宮頸がんのリスクを知ることができます。
なお、現在ではハイリスクタイプのHPVに対するワクチンが開発され、欧米では子宮頸がん予防のために、ワクチン接種が行われています。日本でもワクチン接種の臨床試験が進められています。
検診の結果、異形上皮と出ても多くは正常に戻るので不安がらないで
子宮頸がんは、まず第一次検診として、子宮頸部の細胞を採取して行う細胞診検査を行って、細胞に異形が出ているかどうかをチェックします。
細胞診の結果は、下記のようにクラスI、II、III、IV、Vまでの5段階であらわされます。
・クラスI、II→正常の範囲。
・クラスIIIa、IIIb→異形上皮が疑われる。
・クラスIV、V→子宮頸がんが疑われる。
精密検査が必要になったときには、コルポスコープという拡大鏡で子宮の入り口をよく観察し、異形上皮やがんが疑われる部分を切り取って組織診を行います。
細胞診で、異形上皮という結果が出ると不安になるかもしれませんが、異形上皮のすべてががんになるわけではありません。
細胞診の結果が「クラスIII」と出た人の9割は、2年以内にクラスI、IIに戻るといわれていますから、今後は半年に1回、3か月に1回といった形で定期的に検査を受けて経過観察をしていけばよいのです。
異形上皮は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行していきます。経過観察をするうちに高度上皮異形の段階になった場合は、がんの手前であるということで、早めに円錐切除術などの治療に移行することができます。円錐切除術は、子宮頸部の入り口をがん部分も含めて円錐状に切除する手術で治療や診断にも使います。手術時間は30分程度と短時間で終わります。
また、現在では子宮頸がんのリスク評価が的確にできるようになったため、異形上皮に加えてHPVハイリスクタイプが出ている人は、早めに円錐切除術で治療をすすめることが多くなってきています。
進行すると、大きな手術になります
子宮頸がんは、子宮の入り口から腟につながった部分にできるがんです。そのため、がんが膣の壁に沿って広がったり、骨盤の底の方に向かって進んでいきやすいのが特徴です。
がんが上皮にとどまっている早期の段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮も温存できます。
しかし、がんが進行してしまうと子宮を摘出する手術が必要になります。病巣の広さや・広がり具合によっては、子宮だけではなく卵巣、卵管、子宮を支えているじん帯などの周辺組織を広範囲に摘出する広汎子宮全摘術やリンパ節郭清術が必要になります。
ふつうの子宮全摘術は、1時間くらいの手術ですみますが、広汎子宮全摘術となると骨盤の奥深くまで手術するために、手術に4~5時間かかり、手術中は出血量も多く輸血が必要になります。婦人科の手術の中ではもっとも大きな手術となります。
また、骨盤内には排便や排尿をつかさどる神経が走っていますから、手術後は尿意を感じににくくなる排尿障害、排便障害などの後遺症が起こることがあります。さらに、リンパ節郭清術で骨盤内のリンパ節をすべて取り除くため、足にむくみ(リンパ浮腫)が起こりやすくなります。
このように、子宮頸がんは進行するとそれだけ治療も大変になり、体への負担も増します。
苦痛が少なく、簡単にできて、異常が見つけられる子宮頸がん検診は、世界的にもっとも有効ながん検診と認められています。定期検診を欠かさず受けて、早期発見に努めましょう。