知っていますか?「薬剤耐性」のこと
細菌による感染症の治療に欠かせない抗菌薬ですが、間違った使い方によって薬が効かなくなる「薬剤耐性」が問題になっているといいます。
どうしてそんなことが起こるのでしょうか?
「薬剤耐性(AMR)」って何?
「薬剤耐性」という言葉を聞いたことありませんか?
英語の頭文字をとって「AMR(Antimicrobial Resistance)」とも呼ばれています。
この薬剤耐性(AMR)が今、世界中で深刻な問題となっているといいます。
薬剤耐性とは、一般的に感染症の原因となる細菌に「抗菌薬(抗生物質、抗生剤とも)が効かなくなる、または効きにくくなる現象」といわれます。
薬剤耐性を得た細菌のことを「薬剤耐性菌」といいます。単に「耐性菌」といったりもしているようです。
そもそも抗菌薬は細菌の増殖を抑えたり死滅させたりする薬剤で、細菌によって引き起こされる感染症を治療するには欠かせない重要な薬。それが効かないとなると、多くの感染症の治療が難しくなってしまいます。
世界で年間120万人以上が死亡?
実際、薬剤耐性が原因で亡くなった人の数は、世界保健機関(WHO)によれば、2019年に世界で年間約127万人にもなるとされます。
また、2013年時点の推計によれば、もし何も対策を講じなければ、2050年には世界で年間に約1,000万人が薬剤耐性が原因で亡くなるといわれています。
日本でも2種類の薬剤耐性菌で2017年に約8,000人が亡くなっているとの報告もあります。
薬剤耐性の問題は、けっして人ごとではなく、いつ、だれに起こっても不思議ではない身近なリスクといえるかもしれません。
こんな抗菌薬が効かない、薬への耐性を持った細菌が、どうしてあらわれるのでしょう?
「かぜ」の治療に抗菌剤は有効か?
多くの場合、抗菌薬の間違った使い方がその原因とされます。
例えば、かぜをひいて熱や鼻水が出たときに医師から抗菌薬(抗生物質)を処方してもらおうと思ったこと、ありませんか?
国立国際医療研究センター病院の調査(2022年)によると、かぜの症状で受診した際に抗菌薬の処方を希望した人は39.0%でした。
さらにその人たちの41.0%が「抗菌薬はウイルスをやっつける」と答えています。
ところが「かぜ」はウィルスによる感染症で、細菌以外の病原体(ウイルスや真菌など)が原因の感染症には、抗菌薬は効果が期待できないといいます。
必要ないのに抗菌薬が使われてしまうことで、薬が効きにくくなる薬剤耐性菌の発生リスクが高まる可能性もあるといわれます。
細菌が抗菌薬への耐性を持ってしまうと、抗菌薬を分解したり、細菌の構造を変えて抗菌薬が作用しなくなる、耐性を持った細菌の中に入ってきた抗菌薬を細菌の外に出すなどして、抗菌薬の影響を受けないようにするので、抗菌薬は細菌には効かなくなるといいます。
薬剤耐性菌を増やさないためには?
そんな薬剤耐性菌を増やさないためには、かぜの場合のように、必要がない抗菌薬は飲まないなど、正しく使うことが重要とされます。
ほかにも適切でないケースでよくあるのは、「症状がよくなったから」といって、医師の指示した期間よりも早く薬の服用をやめたり、1日の服用回数を減らしたりといったことで、体内に残った細菌が薬剤耐性菌になることがあるといいます。
また、処方された抗菌薬を残しておいて、いつか使おうと考えるのは危険だとも。次回もその抗菌薬が効くとは限らず、思わぬ副作用が出るおそれもあるといいます。
さらに使わなかった抗菌薬を他人にあげたり、ほかの人からもらったりするのは絶対にしてはいけません。もちろん、医師の判断を無視して自分の方から医師に抗菌薬を希望しないことも大切です。
薬剤耐性菌はさまざまな医療の妨げになり、抗菌薬を必要とする病気の治療ができなくなるおそれもあるといわれます。
ところでこの薬剤耐性ですが、細菌だけでなくウイルスにもみられるそうです。これらの病原体、かなり手強いです。
<参考>
*「抗菌薬(抗生物質)の処方に関する調査(2022年11〜12月)」(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)
*「薬剤耐性(AMR)ってなに?」(東京都立病院機構)
*「減らそう!薬剤耐性」(内閣官房)
*「耐性の仕組み」(農林水産省)

