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【4/10更新】歩きスマホはなぜ危ないのか

危ないとわかっていてもついついやってしまう歩きスマホ。

歩きスマホはなぜ危険なのか科学的に解明されつつあるようです。

 

歩きスマホをする理由

突然ですが、歩きスマホをしていて誰かとぶつかりそうになったり、つまづいて転びそうになった経験はありませんか?

 一般社団法人 電気通信事業者協会が行った調査によると、9割以上の人が「歩きスマホは危ない」と感じているにもかかわらず、半数近くの人が「歩きスマホをすることがある」と回答しています。

「歩きスマホをしてしまう理由」として、約4割が「移動しながら時刻表や地図アプリを使用するのが便利だから」と回答しています。

他にも「SNSやLINE、メールなどでのやりとりをタイムリーにしたいから」「スマートフォンを見ることが癖になっている」「メールを見たり、文字を打つのについ夢中になってしまうから」といった回答も上位を占めていました。

 こうした結果をみながら「そうそう」とうなずいている人も多いかもしれません。

歩きスマホを規制したり禁止する条例が全国の自治体で広がりつつあるようですが、それにも関わらず事故がいっこうに減らないのは「少しの間ならいいだろう」「自分は事故を起こさないだろう」……こんな過信があるからかもしれません。

 

歩きスマホは50代が多い?

 では、歩きスマホをしていると、どんな事故リスクが高まるのでしょうか。

東京消防庁が発表している「歩きスマホ事故」の実態をみていきましょう。

東京消防庁管内で、「歩きスマホ」にかかわる事故によって救急搬送されたのは2020年~2024年年までの5年間で143人。

2024年の1年間だけで29人が救急搬送されているそうです。

救急搬送された人を年代別にみると、もっとも多かったのが50歳代。続いて20歳代、40歳代、30歳代の順になっています。

 

「ころぶ」「ぶつかる」「落ちる」が事故のトップ3

事故内容をみると、「ころぶ」事故が62人ともっとも多く、全体の4割以上を占めています。次いで「ぶつかる」事故(45人)、「落ちる」事故(29人)となっています。

具体的な事例をみると「携帯電話を操作しながら階段を上っていたところ、つまづいて転倒し、前額部を受傷した」「駅のホームで携帯電話を見ながら歩行中に誤って線路に転落し受傷した」などがあるようです。

救急搬送した人の多くは軽症ですんでいるそうですが、生命の危険はないけれど入院を要した人や、なかには命の危険に及ぶ重篤なケースもありました。

また他の歩行者にぶつかるなどして、相手をケガさせる事故やトラブルもあとを絶たないようです。

 

スマホ歩きはなぜ事故リスクが高いのか

 でもなぜ歩きスマホをしていると転倒リスクが高まるのでしょうか。

 1つは視野の問題があるといいます。歩きながらスマホを見ていると周囲が見えずに他人や障害物にぶつかったり、段差につまずいたり、また転落するリスクが高まるといわれています。

また、小さなスマホ画面に集中していると周囲が視界に入っていても、実は認識されていないことがあるといいます。

しかし、それだけではないようです。

このほど京都大学の研究チームによって、脳の情報処理能力がスマホ操作に割かれてしまうことで、歩行のリズムが乱れて歩行の安定性が低下することが実験で示されたそうです。

 通常の歩行では、一歩一歩踏み出す際に歩行周期の変動(ゆらぎ)があるといいます。

「正常の歩行では、歩行周期が一度長くなると次の1歩も長くなる傾向が強くなり、逆に一度短くなると短くなりやすくなる」というように、歩行周期がゆらぎ、一定の周期を保っていないことが特徴だといいます。

 

歩きスマホは歩行も不安定に

 しかし、44人の健康な若者の足に加速度計を取り付け、トレッドミル(ルームランナー)の上を(1)何も持たない「通常歩行」、(2)画面表示がないスマホを持って見つめながらの歩行、(3)スマホでパズルゲームを親指1本で操作しながらの歩行――という3パターンで30分間歩いてもらったところ、(3)のスマホゲームをしながらの歩きスマホの人だけ、歩行にゆらぎがなくなる、言い換えれば歩行の安定性が低下していることがわかったということです。(東京新聞 2025.2.2より)。

立ち止まってスマホ見る時間が惜しいときは、つい歩きながらスマホを見てしまいがちです。

けれども、転倒、転落の事故リスクや他の歩行者も事故に巻き込む危険性があることを考えると、その代償は計り知れません。

あたりまえのことながら、スマホを見たり操作をするときには、じゃまにならない安全な場所に立ち止まって行いたいものです。

 

 

<参考>

※最新の研究成果を知る「歩きスマホによる内因性転倒リスクの増大」(京都大学)

※「歩きスマホ脳にも悪影響」(東京新聞 2025.2.2)

※「歩きスマホに係る事故に注意!」(東京消防庁)

※プレスリリース「歩きスマホ」の実態および意識に関するインターネット調査について」(一般社団法人 電気通信事業者協会)

 

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。