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PLUS COLUMN

「痛い痛い」は、どこへ飛んでいった?

今でも、どこかで、誰かが口ずさんでいる? あの「おまじない」。

「飛んでけ~」と痛いところをさすられると、不思議にスーッと痛みが消えた……ような気がしました。

痛みはどこへ飛んでいったのでしょうか?

 

「痛いの痛いの……」は本当なのか?

 幼い頃、遊びに夢中になって、勢い余って転んだり、よそ見したりして机や柱などに脛や頭を思いっきりぶつけてしまったとき。

そのあまりの痛さに言葉を失い、その場にうずくまって大泣きに泣くか、ジッと痛みに耐えるしか方法がなかったとき、親にかけてもらった言葉。「痛いの痛いの飛んでけ~」……。

そんなおまじないとともに、痛むところをゆっくりとさすってもらうと、アララ……不思議なことに痛みがス~ッと引いていくような……そんな経験をお持ちの方も少なくないでしょう。

 科学が万能の現在、そんな非科学的にも思える「おまじない」ですが、実は科学的、医学的な理由がちゃんとあったのです。

 

触覚は痛覚よりも強し!

 病気になったり、ケガをしたときにお医者さんから治療をしてもらいますが、そうした医療行為のことを「手当て」といいますよね。

「応急手当て」という言葉もあります。

 痛いところをさすったり、手を当てたりすると痛みが和らぐことから、「手当て」が医療行為をさす言葉の由来になったともいわれています。

 人間は痛みを感じる感覚のほかに、冷たいとか温かい、触れたり圧迫したりする触覚など様々な感覚を持っています。

 これらの感覚は神経繊維を通してすべて脳に伝達されるのですが、神経繊維が太い、細いといった違いで痛みの伝達速度に差が生じるらしいです。

つまり、神経繊維が細い痛みの感覚よりも、神経繊維が太い触覚や圧迫を伝える感覚の方が速いらしく、痛覚と触覚の信号が同時に脳に伝えられたときに、痛みの感覚が阻害されて触覚が優先的に脳に伝達されるというものです。

「ゲートコントロール説」とか「ゲートコントロールセオリー」などと呼ばれているようです。

 

触れることで「幸せホルモン」が分泌される?

このゲートコントロール説によって、「痛いの痛いの飛んでけ~」が科学的に証明されたというわけです。

1965年に2人の学者によって発表された学説だそうです。

このゲートコントロール説は、「タッチング」という形で、看護の世界でも重要な役割を果たしているようです。

病気やケガを抱える人の痛みや不安、緊張を和らげ、安心感や信頼関係を築く効果があるそうです。

やさしく触れられることで、脳の神経伝達物質のオキシトシンが分泌されるといわれます。

オキシトシンは「幸せホルモン」ともいわれていて、心の安らぎやストレスの緩和に関与していると考えられています。

ただし、触れて欲しくない人に触られてもオキシトシンの分泌は期待できないそうですから、誰彼かまわず触ればいいということではないので、誤解なきよう、くれぐれもご注意を。

「痛いの痛いの飛んでけ~」に類するおまじないは、世界でも広く使われているようです。

 ちなみに英語では「pain pain go away」だそうです。

 ……日本語そのままですね。

 

<参考>

*「『痛いの痛いの飛んでけ〜』でホントに和らぐわけ」(ヨミドクター/読売新聞)

*「心を癒し、絆を深める『手当』の不思議」(沢井製薬株式会社)

*「『痛いの痛いの飛んでいけ!』はホント⁉︎」(金城学院大学web)

 

 

プロフィール

医療ライター
中出 三重

株式会社エム・シー・プレス勤務(医療ライター・編集者)

*出版社勤務、フリー編集者を経て、企画・編集室/株式会社エム・シー・プレス勤務。

*女性を取り巻く医療と健康、妊娠・出産・育児の他、予防医学、治療医学などを中心に、多くの単行本を企画・編集・執筆。

*楽しく食べること、おいしく飲むことをこよなく愛する。休日の楽しみは公園ごはんと街歩き。

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