あつもの(羹)に懲りてがん予防?
暖かい食べ物や飲み物が恋しい季節になりました。寒さに縮こまった体がほぐれ、ホンワカとやさしい心持ちになります。でも、だからといって熱いものばかり口にしていると、食道がんのリスクが高まるらしいです。
熱い食べ物、飲み物ものは食道がんのリスク?
湯豆腐に水炊き、あんこう鍋に土手鍋……鍋は冬の料理の定番。
全国にはその地域ならではの多種多様な鍋料理があります。
シメは雑炊にするか、それともうどんにするか? 餅はどう?
そんな他愛のないことにも真剣に頭を悩ましてしまう鍋料理は、みんなを笑顔にしてくれます。
でもホカホカ、熱々の鍋料理には悩ましいこともあります。
熱い食べ物や飲み物を熱いまま食べると、「食道がんの発症リスクが高くなる」というのです(国立がん研究センター・がん情報サービス)。
口の中や食道の粘膜を傷つけるので「少し冷ましてから食べる」ようにしましょうというわけです。
でも鍋料理は熱いうちに食べるからおいしいのであって、生ぬるい鍋料理がおいしいとは、とても思えないような気がしないでもなく……。
「熱いものを熱いうちに食べる」のがおいしい?
古来、湯気の立つ料理は多くの人に愛されてきたに違いなく、熱々のものをフーフーして食べるたび、多くの人はしみじみと「幸せだなあ」的気分を抱いてきたんだと思います。
漫画家の東海林さだおさんは、「うんと熱いものを、うんと熱いうちに食べなければならない」「(熱いものを)フーフー吹いて食べるところにおいしさがある」と、自身のエッセー「湯気のある風景」(「タクアンの丸かじり」文春文庫)で述べています。
熱々、フーフーの料理は鍋だけではなく、鍋焼きうどんや五目あんかけソバ、ナメコの赤だしなども相当にアヂヂです。
それらの料理の一部でも口に入れたとたん、胃に至るまでの間、そのあまりの熱さにもがき苦しんだ人は相当の数に上るに違いありません。
熱いコーヒーは食道がんのリスク?
熱い食べ物は食道などの器官に少なからず悪い影響を与えているようで、専門家によると、食道の粘膜がヤケドのような炎症を起こし、細胞の遺伝子が傷つけられ、この傷ついた細胞が修復、再生を繰り返す過程でがんが発生するらしいです。
そんななか「熱いコーヒーを多く飲む傾向がある人は、飲まない人に比べて食道がんになるリスクが3倍近くに高まる」とする海外の研究結果が新聞に紹介されていました(東京新聞/2022.10.26)。
熱い紅茶でも同様の傾向があるということです。
研究によると食道がんのリスクは、コーヒーや紅茶といった飲み物の種類ではなく温度が関係しているそうです。
ということは朝一番に飲む熱い日本茶とか朝食時のミルクとかココアとかオニオングラタンスープとかも、熱々を好んで飲むと食道がんのリスクが高まるということになりそうです。
生ぬるい食べ物が「おいしい」時代がくる?
ただ、いくら熱いものが食道がんのリスクを高めるといわれても、「熱いものは熱く」「熱いがごちそう」とかいう食の文化に馴染んだ私たちにとって、生ぬるい食事や飲み物は「どうかな……?」というのが正直な気持ち。
一方で「ただ食道がんの不安もあるし……」と、悩ましいかぎりです。
必要以上に心配することのたとえで「羹(あつもの=熱い吸い物)に懲りて膾(なます)を吹く」という故事があります。
でも心配に「しすぎ」はなくて、慎重さはどんなときにも大切です。
この故事にならえば「羹に懲りて(食道)がん予防」ということになるのでしょうか。
近い将来、生ぬるい湯豆腐、生ぬるい鍋焼きうどん、生ぬるい雑炊、生ぬるい茶碗蒸し、という生ぬるづくしが「おいしい」と思えるような食の概念が形成されるのでしょうか?
<参考>
*「科学的根拠に基づくがん予防」(国立がん研究センター がん情報サービス)
*「協会けんぽ 健康サポート〜がん予防」(全国健康保険協会)
*「タクアンの丸かじり」(東海林さだお・著/文春文庫)
*「熱い飲み物にご注意‼︎」(東京新聞/2022.10.26)