
気になる症状と「正常性バイアス」
突然ですが「正常性バイアス」という言葉をご存じですか?
心の平安を保つために必要な心理状態ですが、ときに大きなリスクをもたらすことがあるようです。
お尻から出血……そのときあなたは?
例えば、排便後。お尻を拭いたペーパーに血が付着していたり、便に血が混ざっていたりすれば、誰もがギョッとするもの。こんなときに頭をよぎるのは「痔かな? まさか大腸がんではないよね」という心配ではないでしょうか。
痔は男性に限らず女性にも多いトラブルのひとつ。
日本人の3人に1人は「痔主」といわるほどポピュラーな病気ですから、大腸がんの不安が頭をよぎっても「お尻からの出血=痔だろう。だから自分も痔に違いない」と思いたくなるのも無理からぬことかもしれません。
けれども、大腸がんは近年は男女ともに罹患率・死亡率が常に上位を占めていて、誰もがかかる可能性があります。
「まさか、自分ががんになるはずはない」という思いこみは大変危険だといえます
自分に都合の悪い情報は受け入れたくない
こんなふうに、気になる症状が出たとき、またがん検診で要精密検査の通知を受け取ったときなど、人はしばしば「自分が重大な病気になるはずがない」と、不安を打ち消そうとします。
これを心理学の用語で「正常性バイアス」といい、社会心理学や災害心理学、医療用語やビジネスシーンでも使われているようです。
「バイアス」とは、偏見、先入観といった意味です。
ウィキペディアによると、正常性バイアスとは「自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性のこと」とあります。
「この日常が永遠に続く」という思いこみ
多くの場合、人は何の根拠もなく今の日常が続くと思いこんでいて、予期せぬ出来事が起こると「この程度なら大丈夫」と思ったり、「悪いことは考えたくない」と思考停止状態に陥りがちです。
けれども、たとえば災害時にこのような思いこみをしていると、逃げ遅れてしまう可能性があります。
実際、東日本大震災など災害時に逃げ遅れる原因にこの「正常性バイアス」という心理が大きく関わっていたといわれています。
気になる症状は放置してはダメ
それは、病気に対しても同じことです。
気になる症状が起こっても「自分は大丈夫」と思いこみたいがために放置してしまうことがしばしば起こりがちです。
がんも含めて多くの病気は、早期に発見して早期に治療すれば、軽症で済み回復も早いといわれています。
また、がんについていえば今はもう不治の病ではなく、多くの場合検診による早期発見・早期治療で約9割が治るといわれていますから、正常性バイアスから抜け出してすみやかに受診することが自分の身を守ることにつながります。
正常性バイアスに支配されないために
正常性バイアスは、心の平安を保つための心の防衛機能だといわれています。
誰もが陥りやすい心理状態でもあります。でもだからこそ、「正常性バイアスに」支配されたり振り回されたりして、異常事態を楽観視しないようにしたいものです。
不測の事態に直面したときには、まずは「正常性バイアス」があることを自覚すること。そうして「自分は思考停止になっていないか」を意識することが、正常性バイアスから抜け出す一歩になりそうです。
<参考>
※「正常性バイアス」(ウィキペディア)
※「よくわかるがんの授業」(日本対がん協会)
※セミナーレポート「職域における大腸がん検診が真の成果を発揮するには」(ウェルネス・コミュニケーションズ)