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「知っておきたい“大人の虫歯”」その1

虫歯は子どもに多いと思われがちですが、実は大人でも虫歯は頻繁に起こります。歯周病と並んで歯を失う大きな原因となっているのです。しかも大人の虫歯は気づきにくく、発見されたときには、かなり進行しているのも大きな特徴です。あなたの歯は大丈夫ですか?

虫歯の危険要因をチェックしよう

虫歯予防のために、みなさんはどんなことに気をつけていますか? よく知られているのは「歯を磨くこと」と「甘いものを食べないこと」。でも実際には毎日しっかり歯磨きをして、一生懸命甘いおやつを我慢しているのにもかかわらず虫歯になる人がいます。なぜなのでしょうか?
実は、虫歯は1つの原因で発症するわけではありません。さまざまな要因が重なりあって虫歯ができます。
最近、予防歯科では、「カリエス リスクテスト」といって、唾液でわかる虫歯の危険度検査を行っています。カリエス リスクテストを解析すると、虫歯になりやすいのはどこに問題があるからなのか、その人の弱点がひと目でわかります。そして、その結果に応じて、ひとりひとりに適した虫歯予防プログラムを立てられるようになりました。

虫歯はこうしてできる

お口の中に棲みつく虫歯菌が、食べ物の中から糖分を取り込むと、それを分解して、ねばねばした物体をつくり出します。これがプラーク(歯垢)です。虫歯菌は歯の表面についたプラークに棲みついて増え、糖分を栄養にして“酸”を作り続けます。高濃度の酸で歯のエナメル質が溶かされて、その部分が穴になります。これが虫歯のはじまりです。

虫歯のできるまで

虫歯ができるリスク要因

では、どんな要因が虫歯のリスクになるのか、カリエス リスクテストの項目をみていきましょう。

★ミュータンス菌が多い

数ある虫歯菌の中でも“悪玉菌の代表格”といえるのがミュータンス菌。口の中にいるミュータンス菌の量が多いほど虫歯になるリスクが高まります。

ところで、このミュータンス菌は、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には存在しません。母親や父親、祖父母などがなめたスプーンで食べ物を与えたり、口うつしで食べさせることで、1歳7か月から2歳7か月ころの間にミュータンス菌が大人から子どもへと感染しまうのです。両親ともに虫歯がない子どもに虫歯が少ないのは、このことが関係しています。
周囲にいる大人は日ごろからミュータンス菌を減らす努力をして、口移しで食べさせるのをやめるなど、虫歯菌を赤ちゃんに感染させないようにしたいものですね。

▼予防POINT

虫歯予防は、まず歯磨きですが、ていねいに歯磨きをしても、すぐに虫歯になってしまうという人はミュータンス菌の数が多いことが考えられます。
虫歯菌の量を減らすためには、フッ素やキシリトールを上手に使うこと。また、ミュータンス菌は歯科医院のクリーニングで減らせます。年に2回ほど、歯科衛生士による専門のクリーニング「PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaningの略)」を受けて、虫歯菌がつくるフィルム状の膜を除去すると一時的にですが、ミュータンス菌をほぼゼロにすることができます。すかさずキシリトールを摂ることで、徐々にミュータンス菌を減らすことができるのです。重症の虫歯症の人には「3DS(Dental Drug Delivery System)」といってミュータンス菌の除菌治療もあります。

★ラクトバチラス菌(虫歯菌)が多い

虫歯の発生に大きくかかわっているのがミュータンス菌なら、ラクトバチラス菌は虫歯を進行させる菌。ちょうどミュータンス菌の子分みたいな存在です。ラクトバチラス菌は、別名“甘い物好き菌”といわれていて、甘いものを頻繁に食べるなど、口の中が常に酸性に傾いている人のお口の中に多く現れます。また、古い虫歯がある人の口の中にも現れます。

▼予防POINT

「甘いものを食べるから虫歯になる」は大きな誤解です。世界の砂糖の1人あたりの消費量と虫歯の数をみると、欧米の砂糖の消費量は日本をはるかに上回っているのに、1人あたりの平均虫歯数は日本の半分以下の国もあります。つまり、甘いおやつや飲みものは、摂取してはいけないのではなくてそのとり方が問題。ちょこちょこ、ダラダラ食べているからミュータンス菌やラクトバチラス菌が増えるのです。甘いおやつを食べるときは、デザートとして食事とセットでまとめ食べをして、最後は水かお茶を飲んで口の中を中和して、歯磨きをしましょう。

★プラーク(歯垢)の蓄積量が多い

プラーク(歯垢)は、単なる食べかすではありません。プラークは、細菌のかたまりで、プラーク1ミリグラムの中には、なんと10億個ものミュータンス菌がいるといわれています。つまり、プラークが溜まる量が多ければ多いほど虫歯になる危険度が高まります。特に、プラークが付きやすいのが歯と歯茎の境目や上の奥歯の外側や奥(または)ノド側、下の奥歯の裏側です。歯ブラシが届きにくい場所なので、磨き残しには要注意!

▼予防POINT

プラークを落とすには、やはり毎日のセルフケアがとても大事。歯と歯の汚れは歯ブラシだけでは取り除きにくいので、歯ブラシ+デンタルフロスの組み合わせを習慣にしましょう。また、どんなにていねいに歯磨きをしているつもりでも、磨き残しは出てしまうもの。歯科医院でのプロフェッショナルケアも欠かせません。定期的にケアを受けて、自分では取り除けない歯石やプラークを取ってもらいましょう。そのときにブラッシング指導も受けておくと、自分の磨きぐせもわかります。

*次回に続きます。

プロフィール

倉治 ななえ 先生
歯科
倉治 ななえ 先生

1979年 日本歯科大学卒業。補綴学教室第2講座入局
1983年 クラジ歯科医院開設(現在、院長)
1989年 テクノポートデンタルクリニック開設
1990年 子育て歯科を始める
2003年 Dr.NANA予防歯科研究所設立(代表)

●歯学博士
●日本歯科大学附属病院臨床准教授
●日本フィンランドむし歯予防研究会 副会長
●日本アンチエイジング歯科学会 理事
●日本小児歯科学会 会員
●大田区学校保健会副会長

主な著書
「キレる理由は歯にあった」(KSS出版)
「はじめての歯みがきレッスン」(PHP研究所)
「きれいな歯をつくる 大人のためのデンタルブック」(大泉書店)
「歯並びのよい子に育てるために」(わかば出版)ほか。

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