プラスコラム
PLUS COLUMN

乳がん検診を効果的に受けよう

20歳代で、少なくとも1回は乳がん検診を

乳がんは、ほかのがんの中でも比較的ゆっくり進行するがんです。がん細胞が増殖して、手に触れてわかる2cm前後の大きさのしこりになるまでに約10年。30代でしこりに気づいて発見されたがんは、すでに20代のときに発症していることになります。

ですから、少なくとも20歳代のときに1回は、ベースとなる乳がん検診を受けておくこと。そして、乳がんが増える30代からは、年に1回は乳がん検診を受けることをおすすめします。

乳がん検診は、乳腺専門の外来やクリニックで

ところで、乳がん検診というと婦人科を思い浮かべる方が多いようですね。けれども乳房の病気の専門科は、乳腺外科です。婦人科ではありません。個人検診を受ける場合は、専門医のいる乳腺外来や乳腺科などで検診を受けましょう。がんセンターや大学病院などでは一般的な乳がん検診は行わないところもありますから、これらの施設で受けたい場合は、あらかじめ個人検診を行っているかどうかを電話で確認しておくと安心です。

また、最近は乳腺専門のクリニックが増えて、はじめての方も気軽に受診できるようになりました。身近に見当たらないときは、インターネットで「乳腺」 「乳がん検診」「クリニック」などというキーワードを入れて探すとよいでしょう。

乳腺専門のかかりつけドクターを見つておくと安心

乳がん検診は、前回の検診結果と比べて異常を発見するためにも、できれば毎回同じ施設で受けることをおすすめします。がんが発見されてからあわてて医師を探すよりも、検診を機に、健康なときから乳腺専門のかかりつけドクターをつくっておくと安心です。乳房に関するちょっとした不安や心配にも答えてくれますし、いざというときにも心強い味方になってくれます。

 

乳がん検診に欠かせない画像検査

はじめて乳がん検診を受ける方は、検診内容も気になるでしょう。
乳がん検診では、問診・視触診、マンモグラフィ検査、超音波検査を行います。医師が乳房の状態を観察して触診することを視触診といいます。けれども、視触診だけでは、乳がんかどうかの診断はできません。乳がん検診には、マンモグラフィや超音波などの画像検査が欠かせません。
 

■マンモグラフィ検査
 

乳房専門のX線装置を使って行う検査です、乳房を圧迫板ではさんで平たく引き伸ばして撮影します。乳房を圧迫するので、ある程度の痛みは避けられませんが、病変をはっきりと映し出すためには、立体的な乳房をできるだけ薄く引き延ばすことが必要なのです。また、乳房を圧迫することは、放射線の被ばく量を少なくする効果もあるのです。

マンモグラフィ検査では、しこりはもちろん、しこりに触れない非常に早期の乳がんや、乳がんのサインのひとつである石灰化もキャッチできます。石灰化というのは、乳腺にあるカルシウムの沈着物のこと。皮膚や血管などが古くなってできた良性の石灰化もありますが、乳がんによる悪性の石灰化もあるのです。
マンモグラフィでは、乳腺は白く映り、脂肪は黒く映ります。乳腺が充実している若い人の乳房では、全体が白っぽく映るため、白い影として映るしこりと区別がつきにくいことがあります。

なお、マンモグラフィ検査で受ける被ばく量はわずかで安全性が確立されていますが、妊娠中は超音波検査を受けるのが一般的です。妊娠の可能性がある場合にも、受ける前に必ず医師に相談をしてください。
 

 

■超音波検査

乳房にゼリーをぬって、プローブという超音波を発する機器をあてて動かし、画像を見ながら異常をチェックしていきます。痛みもなく放射線被ばくもありません。婦人科の超音波検査と同じですが、子宮や内臓を調べるために使うプローブでは、乳がんは発見できません。乳がん検診では、体の浅い部分を見る乳腺専用のプローブを使います。
超音波検査では、触れてもわからない小さながんを発見することができ、しこりの内部の状態までわかります。

 

自分に合った、効果的な乳がん検診を受けるには

このように、マンモグラフィと超音波の検査は、それぞれ特徴があります。したがって、乳腺の状態によって、マンモグラフィと超音波の両方を組み合わせて行ったほうがよい場合と、どちらか片方だけの検査でも診断できる場合があります。また、たとえば家族に乳がんにかかった人がいる場合や、現在ピルや不妊治療を受けている人など、その人の環境やホルモンの状態、ライフスタイルによっても検診内容が違ってきます。

ベースとなる乳がん検診では、まずマンモグラフィと超音波検査の両方を受けて、その後はどのような検診をどのような間隔で受けるとよいかを、ドクターに相談するとよいでしょう。あなたにあった、検診メニューをアドバイスしてくれるでしょう。

豊胸手術をしていても大丈夫

最近では、気軽に豊胸手術を受ける女性が増えてきました。豊胸手術を受けて満足している方もいますが、一方で、豊胸手術を受けたことで乳がん検診が受けられないのではと心配したり、しこりがあっても受診しにくいと悩む方がいるのも事実です。
けれども、豊胸手術をしていても検査の仕方に工夫をしたり、適切な検査方法をとれば乳がん検診は受けられます。ですから、豊胸手術をしている方も、ぜひ積極的に乳がんの定期検診を受けてください。

シリコンバッグを入れていると、マンモグラフィで破裂するのではと心配される方がいますが、マンモグラフィは、ある圧力がかかるとストップするようになっているので、シリコンバッグが破裂するようなことはありません。また、癒着があってマンモグラフィでは診断しきれない場合でも、超音波やMRIで検査ができるので、心配はいりません。

豊胸手術を受けたことを、まず医師に告げて

豊胸手術を受けたことを医師にはいいづらいかもしれません。でも、黙って検診を受けないほうがよいのです。というのも、たとえば脂肪注入では、注入した脂肪が、悪性とまぎらわしい石灰化になる場合があります。また、ヒアルロン酸を注入する方法では、真っ黒なのう胞がいっぱいあるように見えることがあります。そのため、豊胸手術をしたことを知らないと、医師は悪性を疑って生検(しこりや石灰化に針をさして組織を行う病理検査)を行うことになります。

現在は、豊胸手術は珍しいケースではありません。緊張して検査を受けたり、しなくてもよい生検を受けなくてもすむように、最初に豊胸手術を受けていることを医師にきちんと伝えましょう。

医療機関によっては、「豊胸の方はうちでは検診をお受けしていません」というところもあります。また医師の心ない言葉に傷ついたという声も聞きます。ですから、安心して検診を受けるためにも、そして検診でいやな思いをしないためにも、事前に豊胸手術を受けたけれど、検診を受けられるかどうか確認することをおすすめします。

プロフィール

島田 菜穂子 先生
乳腺科・放射線科
島田 菜穂子 先生

放射線科専門医、マンモグラフィ読影認定(A判定)、日本乳癌学会認定医、 日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定産業医、日本がん検診診断学会認定医 日本体育協会認定スポーツドクター、NPO法人乳房健康研究会副理事長

1988年筑波大学医学部卒。筑波大学付属病院、東京逓信病院、米国ワシントン大学ブレストヘルスセンター、イーク丸の内副院長、東京ミッドタウンクリニックシニアディレクターなどを経て、現在、 ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長。2000年NPO 乳房健康研究会を立ち上げピンクリボン運動など診療の傍ら乳がん啓発活動を推進。