プラスコラム
PLUS COLUMN

増えている乳がん

若い女性のがんの死亡原因のトップが「乳がん」

乳腺にできる悪性腫瘍が乳がんです。乳がんは、かつては日本女性には少ない病気とされてきました。しかし、ここ数十年の間に乳がんにかかる女性が急激に増えています。



資料:国立がんセンター がん対策情報センター

 

35歳~65歳といった働き盛りの年齢層では、女性のがんの死亡原因のトップが乳がん。今、日本女性の12人に1人は乳がんにかかるといわれています。

 

「がん」というと、多くの人は中高年から増える病気というイメージがあるかもしれません。実際、がんというのは、自分の正常な細胞のコピーミスで発症する病気ですから、年齢が高くなればそれだけ細胞のコピーミスが起きやすく、がんの発症が増えてきます。けれども、乳がんや子宮がんにおいては、それがあてはまりません。
欧米に比べてアジアの地域では、乳がんは若い世代に多くみられ、日本では30代から乳がんが増えて、そのピークは40代。ふつうはまだまだがんを意識して生活することがない世代も、乳がん発症の危険ゾーンに入っています。

 

 

資料:厚生省(現・厚生労働省)「がん研究助成金による「地域がん登録」研究班の推計値」(2000年)

 

 

また、「乳がんは、閉経後はならない」ということもありません。60代、70代、そして頻度は下がりますが80代でもかかることがあります。「まだ若いから大丈夫」「もう年だから大丈夫」という言葉は通用しません。

 

罹患率・死亡率は都市部ほど高い

でも、なぜこんなに乳がんが増えてきたのでしょう。その背景には、現代女性のライフスタイルの変化が大きくかかわっているようです。
乳がんは女性ホルモンのエストロゲンと関係する病気で、エストロゲンによって乳がんが発育していきます。
昔の女性に比べて今は初潮を迎える年齢が早く、子どもを産む回数が減っています。子どもを産まない選択をしていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるでしょう。つまり、それだけ一生涯に迎える月経の回数が多く、体がエストロゲンにさらされる期間が長くなっているのです。

また、女性ホルモンは脳によってコントロールされていますから、不規則な生活や睡眠不足、ストレスなども女性ホルモンの分泌に影響します。
食事と乳がんとの因果関係はまだ科学的に証明されはいませんが、食生活の変化も乳がんが増えている背景の一因として考えられています。
ところで、みなさんは、乳がんの罹患率・死亡率に地域差があるのはご存じでしょうか。毎年罹患率・死亡率の全国ワースト1にあがっているのが、東京都。そのほか、神奈川県や大阪など都市部ほど罹患率や死亡率が高い傾向があります。都市部は人口が密集しているので、それだけ乳がんの発症自体も多くなるのでしょうが、食生活の欧米化やストレスの多い生活、晩婚化や未婚化が地方に比べて進んでいるという点も無関係ではないでしょう。

 

誰でも等しく乳がんにかかる危険があります

乳がんになぜなるのか、本当の原因はいまだにまだ解明されていません。
乳がんのリスクファクターとしては、初産が30歳以上の人、出産経験がない人、標準体重の20%以上の肥満のある人、家族に乳がんになった人がいることなどいくつかあげられますが、これらの条件にあてはまる人が必ず乳がんになるわけではありません。反対に、たとえば家族に乳がんの人がいなくても、乳がんにかかる人はいますし、若いうちに妊娠・出産をしたからといって、乳がんにかかる可能性をゼロにすることはできません。
つまり、年齢やライフスタイル、リスクファクターの有無にかかわらず、現代女性は誰でも等しく乳がんになる可能性があると考えてください。

 

「セルフチェック」と「定期検診」が乳がん対策のカギ

残念ながら、乳がんの予防法はありません。でも、早期に発見して適切な治療を受ければ治癒することが可能です。そのためには、自分自身で行う「セルフチェック」と専門医のもとで受ける「定期検診」が大きなカギを握っています。
定期検診では、個人検診のほかに集団検診があります。現在、自治体では行っている乳がん検診は「40歳以上が対象」になっていることが多いのですが、これは決して「40歳以下の人は、乳がんにならない」という意味ではありません。乳がんは、20代でも発症することがありますし、30代後半になれば、発症の危険度は40代、50代とほとんど変わらなくなってきます。
自分は乳がんの危険年齢なのに、自治体の検診対象になっていないと嘆く前に、「自分の健康は自分で守る」という意識を持って、積極的に乳がん対策に取り組みましょう。

 

不十分な検診は、検診を受けていないことと同じ

乳がん検診には、医師が乳房を手で触ってチェックする視触診と、マンモグラフィ(乳房X線)検査、超音波検査などの画像検査があります。視触診と画像検査は必ず組み合わせて行います。よく視触診のみを受けて「私は大丈夫」と思ってしまう人がいますが、視触診だけの検査では、乳がん検診を行っているとはいえません。なぜなら、手に触れただけでは、ごく早期の乳がんまで発見することができないからです。
早期乳がんの発見には、マンモグラフィや超音波などの画像検査が欠かせません。また、乳がん検診は年齢や乳腺の状態によっても有効な画像検査が違ってきますから、自分にあった検診を受けることが重要です。

どうしたら、効果的な乳がん検診を受けられるのでしょうか。次回は、乳がん検診のメニューの立て方についてお話しましょう。

 

プロフィール

島田 菜穂子 先生
乳腺科・放射線科
島田 菜穂子 先生

放射線科専門医、マンモグラフィ読影認定(A判定)、日本乳癌学会認定医、 日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定産業医、日本がん検診診断学会認定医 日本体育協会認定スポーツドクター、NPO法人乳房健康研究会副理事長

1988年筑波大学医学部卒。筑波大学付属病院、東京逓信病院、米国ワシントン大学ブレストヘルスセンター、イーク丸の内副院長、東京ミッドタウンクリニックシニアディレクターなどを経て、現在、 ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長。2000年NPO 乳房健康研究会を立ち上げピンクリボン運動など診療の傍ら乳がん啓発活動を推進。