
しっかり噛んで健康リスクを回避?
「よく噛んで食べる」……幼い頃から食事のたびに何度もいわれていることですが、なぜか大人になった今でもほとんど噛まずに「早食い」……そんな人、多いのでは? 咀嚼にはどんないいことがあるのでしょうか?
なぜ「噛む」ことが大切なのか
食べ物を口に入れる→モグモグと噛み→ゴックンと飲み込む……食事のたびにこうした作業を幾度も繰り返して、そのたびに私たちは栄養とエネルギーを摂取しているのですが、食べ物を「噛む」ことは、それ以外にも体にうれしい様々な役割を果たしてくれているようです。
しっかり噛むと唾液がたくさん分泌されます。唾液は味覚を刺激したり、唾液の消化酵素が胃腸への負担を和らげ、消化を助けてくれます。また、唾液には食べかすや細菌を洗い流す自浄作用があり、口の中を清潔に保ち、口臭や虫歯、歯肉炎などを予防するといわれています。
さらに唾液に含まれるペルオキシダーゼという酵素は有害な活性酸素を除去し、食品添加物などの発がん性を抑制する働きがあることから、がんの予防につながるともいいます。
咀嚼と肥満の深い関係とは
よく噛んで、ゆっくり食べることで肥満を予防できるともいいます。それは逆にいえば、あまり噛まないで速く食べると肥満になりやすいということになります。
厚生労働省の『国民健康・栄養調査』(2009年)では、肥満度(やせ、普通、肥満)と食べる速さを調べたところ、男女とも肥満度が高い人ほど、食べるスピードが速いことが分かりました。
いわゆる「早食い(速食い)」の割合が、肥満(BMIが25以上)の男性で63.9%、女性で46.5%でした。逆に食べる速度が「遅い」人の割合は、肥満の男性で4.8%、女性で11.6%であることも分かりました。
食べる速度と肥満の密接な関係は、同様にほかの研究でも報告されているといいます。
ストレス解消、集中力、注意力を高める?
脳の視床下部にある満腹中枢が血糖値の増加によって刺激されるのは、食べ始めてから約15分といわれています。「早食いの人は大食い」ともいわれますが、早食いだと、脳が満腹を感じる前にたくさん食べてしまうことで摂取エネルギーが高くなり、肥満に繋がっていると考えられています。
よく噛んで、ゆっくり食事を味わえば、食事の量が少しでも、満腹の刺激が脳に伝わり食欲が抑えられます。また、内臓脂肪の分解を促進する脳内物質のはたらきもみられるといいます。
他にも、咀嚼の刺激が脳に伝わることで幸せホルモンのセロトニンが分泌されてストレスが軽減されたり、記憶力や集中力を高めることが知られています。自律神経を安定させる効果もあるといいます。
咀嚼力が衰えると栄養不足に?
現代人は「噛まないごはん」を好むといわれます。カレーにハンバーグなどはまだ序の口。食事も「時短・効率・タイパ」全盛で、ゼリー状の飲料や完全食(完全栄養食)という超タイパの食品も話題のようです。
日本人の1回の食事での咀嚼回数は時代とともに減り続け、いまでは昭和初期の1,420回に対して、その半分以下の620回だそうです。咀嚼時間も22分から11分に減少しています。
「噛むことは大切」「口は健康の入口」などといわれている反面、現実は「噛まない」食事が隆盛を誇っているように見えます。噛む力が衰えると栄養も偏りがちになり、生活習慣病などの健康リスクが高まるといいます。
噛むことが「当たり前じゃない」?
そんなこともあってか、厚生労働省は一口当たり30回以上噛んで食べることを目標とする『噛ミング30』(カミングサンマル)を推奨しています。さらに1回の食事で1,500回噛むことがよいとされています。ただ、一口食べるごとに30回、1食で1,500回も噛むのは容易ではありません。
噛む回数が自然に増えるような、例えばゴボウやタケノコなどの根菜類やキノコ類、こんにゃくなどの噛みごたえのある食材を活用するのがいいようです。乱切りやぶつ切りなど、食材の切り方にも工夫が必要です。
もちろん、スマホやテレビ、マンガ、雑誌などを見ながらの「ながら食べ」は、噛むことに集中できないのでやめましょう。
「できて当たり前」と思っていた「噛む」ことが、「意識しないとできない」……そんな時代なのかもしれません。
<参考>
*「速食いと肥満の関係」(e-ヘルスネット・厚生労働省)
*「よく噛んで、食べ過ぎを防ごう」(農林水産省)
*「噛むことが大切な4つの理由」(公益財団法人神奈川県歯科医師会)
*「咀嚼とストレス解消のメカニズム」(株式会社ロッテ)
*「よく噛むとどうなるの?」(全国健康保険協会)