病気・トラブル辞典
SICKNESS & TROUBLE DICTIONARY

尿失禁
[にょうしっきん] 体の病気 泌尿器(腎臓・尿)

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泌尿器科

尿失禁とは、自分の意思では尿が漏れるのをコントロールできない状態をいいます。
加齢にともなって尿失禁を起こす人の割合は増えますが、若年層でも軽い尿失禁を経験する人は少なくありません。高齢者では、およそ3人に1人の割合となります。
どの年代でも男性より女性に多くみられます。これは、もともと女性は男性よりも骨盤底筋が弱いこと、妊娠や出産で骨盤底筋がさらにゆるむこと、更年期に入ると女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が低下して、尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)のはたらきが悪くなることなど、複数の要因が重なるためです。
尿失禁は、適切な治療と日常生活の中で対策をとれば、ほとんどの場合、症状は軽減されます。
高齢になるほど、「老化現象だからしかたがない」と治療を受けないままの人が多くなりますが、これはよくありません。尿失禁を放置すると、膀胱や腎臓に感染が起こりやすくなります。年齢に関係なく適切な治療が必要です。
尿失禁は、症状や原因によって次の4つのタイプに大別されます

腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)

●症状
せきやくしゃみをした瞬間や、重いものを持ち上げたときなど、腹圧が急に高くなったときに尿が漏れるものです。女性の尿失禁でもっとも多いタイプです。

●原因
骨盤内の膀胱、子宮、腟、尿道、直腸などの臓器を支える役目と、尿道をしめる役割を担う骨盤底筋(こつばんていきん)が弱くなることがいちばんの原因です。出産や加齢、骨盤内の手術などによって、骨盤底筋の力は低下します。
男性では、前立腺の手術で尿道や膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)が傷ついたことが原因で起こる場合があります。 男性も女性も肥満は膀胱を圧迫するため、腹圧性尿失禁の発症のきっかけになったり、悪化させる原因になります。

●治療
このタイプの尿失禁にもっとも効果的なのは、骨盤底筋を強化することです。一般に骨盤底筋体操と呼ばれる、腟と肛門を「締める」「ゆるめる」をくり返すことで、骨盤底筋が引き締められ、下腹部から股間、肛門に広がる筋肉を強化できます。
はじめに医師や理学療法士の指導を受ければ、自宅で簡単にできる体操です。そのほか、定期的にトイレに行って、膀胱に尿がいっぱいになることを避けます。
薬物療法としては、尿道を引き締めるはたらきをするアドレナリン受容体刺激薬などを用います。
重度の腹圧性尿失禁では、膀胱を引き上げ、膀胱の出口と尿道を引き締める手術が行われることもあります。

切迫性尿失禁(せっぱくせいにょうしっきん)

●症状
突然激しい尿意を感じ、トイレまで我慢できずに漏らしてしまいます。
高齢者にもっとも多いタイプの尿失禁です。高齢者の切迫性尿失禁は、膀胱の過剰な活動と収縮力の低下がセットになって起こることがあります。

●原因
こうしたタイプの尿失禁の原因には、排尿をコントロールする脳の機能低下が係わっていると考えられます。膀胱が過剰に活動する過活動膀胱の症状は、高齢者によくみられ、昼夜を問わず頻尿になります。

●治療
尿失禁のうち、薬物療法がもっとも効果のですタイプです。膀胱の活動を抑える抗コリン薬、カルシウム拮抗薬などを用います。
また、尿意が起こる前に、規則的な間隔をおいて排尿する行動療法も有効です。くり返し行うことによって、尿意の切迫感や排尿反射を抑えることが期待できます。

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)

●症状
常に膀胱内に大量の残尿があり、そこへ腎臓でつくられた新しい尿が流れてくると膀胱の許容量を超えるため、尿が溢れだします。これが溢流性尿失禁です。いくつかのタイプがある尿失禁のうち、男性に多くみられるものです。

●原因
溢流性尿失禁の原因は、大きく2つあります。1つは前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)や尿道狭窄(にょうどうきょうさく)による尿道の通過障害です。もう1つは、神経因性膀胱によるもので、膀胱の収縮が低下することで尿失禁が起こります。

●治療
原因となっている疾患がある場合は、その治療が第一です。前立腺肥大がある場合は、肥大した前立腺の一部、またはすべてを手術で取り除きます。前立腺の肥大防止や縮小する効果のある薬を数ヵ月間服用することもあります。尿道狭窄では、管を通して尿道拡張する治療や手術を行います。
神経因性膀胱が原因となっている場合は、薬物療法のほか、カテーテルによる導尿が必要な場合もあります。

機能性尿失禁(きのうせいにょうしっきん)

●症状
全身の運動機能が低下していてトイレまで行くことができない、あるいはトイレに行きたがらないために尿が漏れてしまう状態をいいます。

●原因
一般的な原因としては、脳卒中や重い関節炎などで体を動かせない場合です。また、アルツハイマー病などで痴呆が進行し、精神機能が低下することも原因のひとつです。この場合、排尿の場所や場面をわきまえることができなくなり、排尿したり尿を漏らしてしまいます。

●治療
介助者の協力で、規則的に排尿することが重要です。3~4時間おき、といったように間隔を決めて排尿して、失禁する前に膀胱が空になるように気をつけます。