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CHECKUP GUIDE

肝機能を調べる血液検査血液を調べる検査

検査名称

AST(GOT)、ALT(GPT)、γ(ガンマ)-GTP、LDH(乳酸脱水素酵素(にゅうさんだっすいそこうそ))、コリンエステラーゼ(ChE)、ALP(アルカリフォスファターゼ)、総ビリルビン、LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)、A/G比(アルブミン・グロブリン比)、膠質(こうしつ)反応(TTT、ZTT)、色素排泄試験(ICG)

基準値

AST(GOT) 10~40U(ユニット)/ℓ、ALT(GPT) 5~45U/ℓ
γ(ガンマ)-GTP 16~73U/ℓ
LDH(乳酸脱水素酵素(にゅうさんだっすいそこうそ)) 120~245U/ℓ
コリンエステラーゼ(ChE) 3500~8000U/ℓ(ブチリルチオコリン法)
ALP(アルカリフォスファターゼ) 74~223U/ℓ
総ビリルビン 0.2~1.0mg/㎗
LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ) 男性80~170U(ユニット)/ℓ 女性75~125U(ユニット)/ℓ
A/G比(アルブミン・グロブリン比) 1.5~2.5
膠質(こうしつ)反応(TTT、ZTT) TTT1.5~7 ZTT4~12
色素排泄試験(ICG) 血中15分停滞率0~10%

どんな検査?

肝臓は、トラブルを抱えてもすぐには症状があらわれにくく、知らず知らずのうちに病気が進行していくことから「沈黙の臓器」ともいわれています。肝臓の異常をいち早く発見するのに役立つのが血液による肝機能検査です。
採取した血液を遠心分離機にかけ、赤血球や白血球、血小板などの細胞成分と液体成分である血清に分けて、血清中の物質を化学的に分析するのが血液生化学検査です。
血清には、ブドウ糖やたんぱく、脂質をはじめ、さまざまな酵素など生命活動を支えるためになくてはならない物質が多く含まれています。これらを分析することで、体の内部の異常や病気の重症度などを知ることができます。
血液生化学検査では、調べる臓器によって検査項目がちがってきます。検査項目を組み合わせることによって、異常のある部位や病気を特定する大きな手がかりになります。

検査で何がわかる?

AST(GOT)、ALT(GPT)

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、それぞれGOT、GPTと呼ばれていましたが、国際的にはAST、ALTと呼びかえられる方向にあり、日本でも最近はこの名称が用いられるようになりました。
AST(GOT)もALT(GOP)も肝臓の細胞の中にある酵素で、からだが必要とするアミノ酸をつくるのに大切なはたらきをしています。どちらも肝細胞が壊れると、血液中にもれ出て高値になることから、それぞれの数値から肝細胞の障害の程度を知ることができます。ただし、お酒をのんだり運動をしたあと、肥満、ステロイド剤の服用など一時的に上がることもあります。
AST・ALT値が高度(500U以上)の上昇の場合は、急性肝炎や劇症肝炎(げきしょうかんえん)などが疑われます。両方の値が中程度(100~500U)の上昇では、アルコール性肝障害、活動型の慢性肝炎などが疑われます。両方の値の軽程度(100U以下)の上昇は、アルコール性肝障害、脂肪肝、非活動型の慢性肝炎、肝がんなどでみられます。
ほかに、閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、貧血などでもAST・ALT値が上がります。なお、ASTは肝細胞以外にも、心臓の心筋や骨格筋などの細胞にも多く含まれています。したがって、ASTの値だけが高い場合には、心筋梗塞(しんきんこうそく)や筋(きん)ジストロフィーなどの筋肉の病気である可能性もあります。

γ(ガンマ)-GTP

γ-GTPは AST(GOT)、ALT(GPT)と同様に、たんぱく質を分解する酵素のひとつで、おもに肝臓の障害や、胆汁の流れが悪くなると血液中で上昇します。γ-GTPとともにALPも値が高い場合は、肝臓病(急性・慢性肝炎、肝硬変(かんこうへん)、肝がん、薬剤性肝障害、アルコール性肝障害)のほか、胆石、胆道がん、膵臓がん、膵炎(すいえん)などの疑いがあります。
また、γ-GTPはアルコール摂取に反応して高値になります。γ-GTPの値だけが高値を示す場合は、アルコールが原因の可能性が高いでしょう。とくお酒をのむ人で、γ-GTPの値が高い人は、現在肝臓は悪くなくても、将来はアルコールによる肝障害を起こす可能性が高いので、注意をしてください。なお、γ-GTPは精神科で使われる薬をのんでいるときにもよく高値になります。

LDH(乳酸脱水素酵素(にゅうさんだっすいそこうそ))

LDHは、からだの中でブドウ糖がエネルギーに変わるときにはたらく酵素で、血液細胞をはじめ、肝臓、腎臓、肺、心筋、骨格筋など全身のほとんどの細胞に含まれていて、これらの臓器や細胞がダメージを受けると、血液中に流れて高値になります。
血清(けっせい)中のLDHは、肝臓病、心臓病、血液の病気やいろいろな臓器のがんなどで高値になることが多く、これらの病気のスクリーニング(ふるい分け)検査として用いられています。LDHはいろいろな臓器に含まれているので、この検査で異常値がでても、どの臓器に障害があるかまでは分かりません。異常値が出た場合は、もう一度LDL検査を測定するとともに、症状やその他の検査とあわせて総合的に診断します。
なお、LDLの値は妊娠、運動などでも一時的に上昇します。

コリンエステラーゼ(ChE)

肝臓でつくられる酵素のひとつです。肝臓のはたらきが低下すると、産生量が低下するので、血液中の値をはかることで、たんぱくをつくり出す肝臓の機能をみることができます。ただし、コリンエステラーゼの基準値は測定方法によって違いがあるうえに、同じ方法でも施設によって違いがあります。
また、薬剤の使用や性別などによる変動もあります。一般に女性は男性より値が低めで、月経前や月経中でもコリンエステラーゼが減少します。妊娠時も低下します。
低値で疑われる病気は、肝炎、肝硬変(かんこうへん)など重い肝臓病により、肝臓でたんぱくを産生するはたらきが衰えていることを示します。そのほか、がん、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)、妊娠高血圧症候群(こうけつあつしょうこうぐん)などで低値になるほか、栄養状態が悪いために低値になることもあります。
一方、栄養過剰のために肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝(しぼうかん)では高値になります。また、ネフローゼ症候群でも高値になります。これはコリンエステラーゼが肝臓では盛んにつくられるのに、排泄されないために血液中の濃度が高くなるからです。
このほか、値が高い場合は甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、糖尿病、原発性(げんぱつせい)肝がんなどが疑われます。

ALP(アルカリフォスファターゼ)

ほとんどの臓器に含まれるリン酸化合物を分解する酵素で、おもに、肝臓、骨、腸でつくられています。
肝臓のALPは胆汁に排出されるので、肝臓や胆道系の病気で胆汁が流れる経路に異常が出ると血液中に増えます。また、骨や腸に障害が起こっているときも値が高くなりますので、異常値の判定にはほかの検査値も参考にして総合的には診断します。
ALPが高値になる場合は、慢性肝炎、急性肝炎、閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)(胆石やがんなどで胆道が詰まり、胆汁が排出されなくなる)など肝臓や胆道の病気のほか、甲状腺機能亢進症(こうじょうせいきのうこうしんしょう)、骨軟化症(こつなんかしょう)など骨の病気が疑われます。

総ビリルビン

赤血球のヘモグロビンが寿命を終えると、変化して黄色くなり、ビリルビンとなります。
ビリルビンは胆汁色素ともいわれ、胆汁の黄色い色のもとや便の色のもとになります。
肝細胞が障害されたり、胆管に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)があって胆汁の流れが悪くなると、血液中でビリルビンがふえ、皮膚や白目が黄色くなる黄疸(おうだん)が出ます。
総ビリルビン量が高値の場合は、急性肝炎、肝硬変、アルコール性肝炎などの肝臓の病気や、胆石(たんせき)、胆嚢炎(たんのうえん)、胆管がんなど胆道の病気が疑われます。血管内で赤血球が病的に破壊される溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)などでも高値になります。
総ビリルビン量の基準値は0.2~1.0mg/㎗ です。1.5 mg/㎗以上は経過をみて再検査をします。2.0mg/㎗以上になると黄疸があらわれます。肝臓や胆道に異常がなくても、ビリルビン量が高いこともあります。これは、体質的黄疸と呼ばれ、心配はいりません。

LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)

LAPはたんぱく質を分解する酵素で、脳、心臓、肝臓、小腸、膵(すい)臓、子宮、精巣など、さまざまな臓器の細胞に存在します。健康な人では、その中でも胆汁にもっとも多く含まれます。通常は胆道から排泄されますが、胆道が閉塞して胆汁のうっ帯が起こると、血液中にもれ出してLAPが増加します。したがって、血液中のLAP値は、肝臓や胆道の病気を診断する重要な手がかりになるのです。ただし、肝臓がんの場合、胆道の閉塞がなくてもLAP値が高くなります。
LAPが高値の場合に疑われる病気には、肝臓がん、肝炎、胆管がん、膵(すい)臓がんなどがあります。また、子宮がん、卵巣がんなど婦人科系のがんでもLAP値は高くなります。LAPのみでは、明確な診断と治療方針を立てられないので、他の肝機能検査や超音波、CTなどの検査とあわせて、総合的に判断することが大切です。

A/G比(アルブミン・グロブリン比)

血清中に含まれるたんぱく質は80種類以上ありますが、そのうち主なものはアルブミンとグロブリンです。この比率を調べることによって、病気を診断したり重症度を判断することができます。健康な人では、アルブミンが約67%、グロブリンが約33%という割合です。
アルブミンは肝臓でつくられるため、肝臓そのものに何らかの異常があると、血液中のアルブミンは著しく減少し、A/G比も低値になります。また、アルブミンは通常、腎臓や胃腸からもれ出すことはありません。しかし、これらの臓器に異常があると、血液中のアルブミンが失われ、やはりA/G比は低い値になります。
グロブリンは、免疫システムの異常によって増減することが知られています。感染や外傷などで炎症が起こると、免疫システムが活性化するためグロブリン値は高くなり、その結果A/G比は低値になります。とくに、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)の場合はグロブリンが大量につくられるため、A/G比は低値を示します。逆に、免疫力が失われる無γ‐グロブリン血症ではグロブリンが少なくなり、A/G比は高値を示します。
A/G比が基準値をはずれた場合に疑われる病気をまとめると、以下のようになります。

[高値の場合]無γ‐グロブリン血症
[低値の場合]肝臓障害、ネフローゼ症候群、たんぱく漏出性胃腸症、感染症、多発性骨髄腫など

膠質(こうしつ)反応(TTT、ZTT)

80種類以上ある血清中のたんぱくのうち、代表的なものがアルブミンとグロブリンです。このうちグロブリンはさらに、α1、α2、β、γという4つに分けられます。γグロブリンをのぞく血清たんぱくの大半は肝臓でつくられています。このため、血清たんぱくに異常があれば、肝臓に何らかの障害があると考えられます。血清たんぱくの変化を調べる方法のひとつが膠質反応です。膠質反応は、肝機能のスクリーニング(ふるい分け)検査として用いられています。
血清に試薬を加えると、血清中のたんぱくが凝固して混濁したり、沈殿物ができたりします。TTTはチモール混濁試験、ZTTは硫酸亜鉛混濁試験のことで、膠質反応検査の代表的なものです。どちらも、アルブミンの減少とγ‐グロブリンの増加を反映します。
なお、膠質反応検査は食事の影響を受けるので、検査前日の夕食後は絶食し、翌日の空腹時に採血します。
それぞれ、基準値をはずれた場合に疑われる病気は次のとおりです。

[TTT高値]急性・慢性肝炎、肝硬変、膠原病などの自己免疫疾患、脂質異常症など
[TTT低値]栄養不良
[ZTT高値]急性・慢性肝炎、肝硬変、膠原病などの自己免疫疾患など
[ZTT低値]栄養不良

色素排泄試験(ICG)

肝臓の大切なはたらきの1つに、解毒作用があります。
体にとって異物である色素が静脈から侵入してきても、肝臓が正常に機能していれば、肝細胞が色素を取り込んで胆汁へと排泄されます。つまり一定の時間が過ぎれば、血液中から色素は取りのぞかれるのです。
ところが、肝臓の働きが悪い場合には、色素は排泄されずに血液中に残ってしまいます。 ICG(インドシアニングリーン)という暗緑色の色素を使って肝臓の解毒作用を測り、肝機能を調べるのが色素排泄試験です。以前は、BSPという赤紫色の色素も検査に用いられていましたが、アレルギーショックの副作用があるため、最近ではほとんど行われていません。
具体的な検査方法は、体重1kg当たり0.5mgの割合でICGを片方のひじの静脈に注射します。15分後に反対側の肘の静脈から採決して、血液中に残留しているICGを測定します。残っているICGが多いほど、肝機能が低下していることになります。したがって、基準値を超えた場合には、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんなどが疑われます。
この検査では、慢性の肝疾患がどれくらい進んでいるかを調べるときによく行われます。また、肝臓の切除手術をする前にどのくらい切除が可能かといったことを調べるときにも行います。
そのほか、ビリルビン以外の肝機能を示す検査で異常がない場合、肝臓がビリルビンをつくる過程に障害がある体質性黄疸(たいしつせいおうだん)でも、ICG値が高くなります。