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頻尿(ひんにょう)に悩んでいませんか?

さっきトイレに行ったばかりなのに、すぐにまたトイレに行きたくなる・・。頻尿があるとつらいですね。頻尿はしばしば尿モレとセットになって起こるので、誰にも言えずにひとりで悩んでいる人が少なくありません。でも、排尿のトラブルは治療できるので、あきらめてはダメ。まずは、頻尿について正しい知識をもつことから始めましょう。

排尿回数が昼間9回以上、夜間2回以上の場合は、頻尿の疑いが

1日に出るおしっこの回数が多く、間隔が短いことを頻尿といいます。「もしかして、私、頻尿?」と思う人は、いったい1日何回くらいトイレに行くと頻尿というのか気になることでしょう。
排尿回数には個人差はありますが、通常は、1日の排尿回数は、起きている間はだいたい4~8回、寝ている間は0~1回が正常といわれています。したがって、日中のトイレの回数が9回以上であったり、夜間に排尿のために2回以上起きなければならない場合は、頻尿の疑いがあります。


ただし、これはあくまでも目安で、1日の排尿回数は、同じ人でも水分のとり方や気温や湿度などによっても変わってきます。また、たとえ排尿回数が多くても、本人が苦痛に思っていなければとくに問題はないのです。
けれども、たとえば外出先ではいつもトイレの場所を探してしまう、頻尿が気になって映画や旅行などをあきらめてしまう、夜間の頻尿で睡眠不足になってしまうなど、生活に不便を感じる場合は問題です。恥ずかしがらずに女性泌尿器科外来などを受診して、積極的に治療していきましょう。
頻尿になる原因はさまざまですが、もっとも多いのが「過活動膀胱(かかつどうぼうこう)」といわれる病気です。

 

急に強い尿意が起こってがまんできなくなる「過活動膀胱」

過活動膀胱とは、自分の意思とは関係なく膀胱が勝手に収縮してしまう病気で、突然がまんできないほどの強い尿意が起こります。たとえば、映画のクライマックスシーンであと数分で映画が終わることが分かっていても、トイレが待てない状態です。切迫した尿意が起こる結果として排尿回数が増えて、頻尿になります。
また、切迫した尿意があると、トイレまでがまんできずにもれてしまうこともしばしばです。ふだん頻尿ではないのに、水に触ったりすると急に強い尿意をもよおす「手洗い尿失禁」や、帰宅時、家のドアの鍵穴に鍵を差し込んだとたんにがまんできない尿意が起こる「鍵穴尿失禁」といったタイプもあります。


過活動膀胱に悩む人は多く、患者さんは国内に約810万人いると推定されており、成人の男女の25人に1人は過活動膀胱といわれています。
過活動膀胱は、脳梗塞や脊髄の障害など神経のトラブルが原因で起こる場合がありますが、女性の場合、多くは骨盤底の筋肉や骨盤底を構成するじん帯のゆるみや傷つきが原因で起こります。

心因性の頻尿と間違われやすい「間質性膀胱炎」

頻尿になる原因として、過活動膀胱の次に多くみられるのが間質性膀胱炎(かんしつせいぼうこうえん)です。一般的にはまだ知られていない病気ですが、泌尿器科では注目されている病気のひとつです。
膀胱炎といえば、もっともポピュラーなものが細菌感染によって起こる急性細菌性膀胱炎で、女性は、男性に比べて尿道が短いために膀胱に細菌が入りやすいと言えます。


けれども、年に4回以上も急性細菌性膀胱炎を繰り返したり、抗生物質など治療薬を飲んでも効果がなく、1週間以上も症状が続くといった場合は、要注意。「間質性膀胱炎」が疑われます。また、前述の過活動膀胱の治療を受けているのに頻尿が改善しない場合も間質性膀胱炎である可能性が高くなります。
間質性膀胱炎は、尿をためたときに下腹部のずきずきした痛みや重だるさといった不快感があるのが特徴です。そのために、尿をためておけずに頻尿になってしまうのです。はっきりした原因は不明ですが、膀胱粘膜の弱さや膀胱の神経過敏などが関係していると考えられています。


間質性膀胱炎は、細菌性ではないので尿検査の結果は、異常な場合も、正常な場合もあり、あまり症状と一致しません。また、疲労やストレス、月経周期、気温の変化などで症状が悪化することがあるために「心因性の頻尿」と診断されることが少なくありません。しかし、急性細菌性膀胱炎を繰り返すときや通常の薬が効かないとき、1回排尿量100ml以下で排尿をしているときはこの病気を疑う必要があります。間質性膀胱炎を積極的に治療している泌尿器科を受診しましょう。

習慣性やストレス性の頻尿も

このほかにも当然のことながら水分を多くとる人は、トイレに行く回数も増えます。本人が「水分をいっぱいとっているのだから、仕方がない」と考えていればトイレに行く回数が多くでも問題はありません。ただ、一般的には1日2リットル以上水分を摂取していると、ふつうは頻尿になりますから、頻尿が気になる場合は水分摂取量を調整するとよいでしょう。標準的な気温でとくに運動をしないのなら、水分摂取量は1日1~2リットル程度にしておきましょう。


ほかに、ストレスが原因で起こる頻尿や習慣性の頻尿というものもあります。習慣性頻尿というのは、「初発尿意」でトイレに行くことが習慣的になっている人のことです。膀胱に150~200ミリリットルくらい尿がたまると感じる軽い尿意のことを初発尿意といいますが、ふつうは、この初発尿意をやり過ごして、膀胱に十分な尿をためたところでトイレに行きます。ところが、初発尿意でトイレに行くクセがついてしまうと、膀胱に十分な量をためる前に排尿しますから、結果的に頻尿になるのです。


習慣性頻尿の人は、子どものころからおしっこが近かったという人が多く、親がトイレのしつけに厳しく、小さいころから「膀胱炎になるからおしっこをがまんしてはいけない」と言われ続けて育ったという人が少なくありません。あるいは、小さいときから膀胱炎膜が弱くて、人よりも尿意を感じやすかったために頻尿になってしまったと考えられます。習慣性頻尿の患者さんに「体に悪くないから、もう少しおしっこをがまんしたら」というと、それだけでホッとして「トイレに行く間隔が伸びました」といわれることもあります。

治療の中心はセルフケアと薬物療法

過活動膀胱や間質性膀胱炎の治療は、骨盤底筋体操や膀胱訓練などの生活指導と、薬物治療を並行して行います。
過活動膀胱の治療薬では、抗ムスカリン剤が有効です。また、間質性膀胱炎では、抗アレルギー薬や抗うつ剤など膀胱の知覚過敏をとる薬が使われます。漢方も有効です。


そのほか、電気・磁気刺激療法を行ったり、場合によっては手術が行われるケースもあります。また、注目されている新しい治療法にボトックス膀胱壁内注入療法があります。ボトックスは美容整形の世界でも「しわのばし」などで使われているので、ご存知の方も多いかもしれません。ボトックス膀胱壁内注入療法は、膀胱粘膜にボトックスを注射することで、膀胱神経を弛緩させて膀胱容量を増やします。

 

欧米ではよく行われる治療法でその有効性が認められています。ボトックス膀胱壁内注入療法は日本ではまだ数施設でしか行われていませんが、将来的には日本でも一般的に行われるようになるでしょう。
過活動膀胱も間質性膀胱炎も、基本的には薬と骨盤底筋体操や膀胱訓練などのセルフケアで、症状が改善していく人がほとんどです。また、症状が軽い場合はセルフケアだけでも頻尿が改善されます。

次回は、セルフケアについてお話しましょう。

プロフィール

関口 由紀 先生
泌尿器科
関口 由紀 先生

1989年山形大学医学部卒業。
横浜市立大学医学部泌尿器科助手、横浜市立市民総合医療センターなどを経て、2007年横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了、客員准教授。
現在、横浜市立大学医学部付属病院で、女性泌尿器科外来を担当。
2005年4月より、『横浜元町女性医療クリニック・LUNA』を開設。
2008年6月 婦人科を分院し、女性医療クリニックLUNA・ANNEXを開設。
2009年5月 骨盤底トレーニングンターとして、併設していたLUNA治療院を拡大。
現在は、それぞれに女性院長を立て、その中心となる理事長として、世界標準の女性医療を目指す、新しい日本の女性医療の拠点作りを行っている。
医学博士、経営学修士