プラスコラム
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「やせ願望」と摂食障害

「今より、もうちょっとスリムになりたい!」というのは、女性に共通した願いなのかもしれません。
でも、やせ願望が昂じてその先に「摂食障害」というワナが待ち受けていることも……。

「やせたい」と願う女性は多いですね。もともと日本では、豊満でふくよかな体型が理想の女性とされてきました。それが、スリムな体型へと変わってきたのは、1960年代ころから。そのきっかけをつくったのは、イギリスのモデル・ツウィギー(英語で小枝という意味)の登場でしょう。当時、細くて華奢な体型を活かしてスーパーモデルとなったツウィギーに、多くの女性たちが憧れました。


以来、女性のあいだではダイエット人気が強くなり、巷にはさまざまなダイエット情報やダイエットグッズがあふれています。
さらにテレビや雑誌などのメディアにあおられて、女性たちは「やせている=美しい」といった価値観をもち、ダイエットに励むようになりました。しかし、無理なダイエットが女性の健康にさまざまな弊害を及ぼすことについては、意外なほど知られていません。

無理なダイエットがもたらすさまざまな弊害

女性の場合、体脂肪が急激に減ると、月経不順になったり無月経になることが少なくありません。月経が止まるということは、女性ホルモンが分泌されなくなるということ。閉経した状態と同じになることです。そのために、イライラやのぼせ、冷え、肩こりなど20代でも更年期のような症状が出てきたりします。
また女性ホルモンは、月経や排卵を起こして、妊娠機能を維持する働き以外にも、骨や血管の健康を守り、記憶力を維持するなど、さまざまな形で女性の健康を維持する重要な働きもあります。女性ホルモンが十分でないと若くして骨がスカスカになったり、血管の老化が早まったり。また、若年性アルツハイマーを引き起こすリスクも出てきます。

危険な妊娠中のダイエット

「妊娠中も、体重を増やしたくない」と思う女性が増えてきました。妊娠中に母親が体重制限をして適切に体重が増えないと、母体の栄養が不足しておなかの赤ちゃんの発育が抑制されたり、低体重児で生まれるリスクが高くなります。
また母体の栄養状態が悪いと、生まれた赤ちゃんは将来、糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいことがわかっています。

ダイエットがきっかけで起こる「摂食障害」

最近は、「やせ願望」が中・高校生から小学生へと広がってきました。成長期のダイエットは、健康に悪影響を及ぼしますが、それだけではありません。摂食障害は10代前半からはじまり、多くはダイエットがきっかけで起こることが多いのです。そのために、やせ願望の低年齢化が大きな問題になっています。
思春期の摂食障害は、拒食症からはじまるのが典型的です。


極端に食事を制限した結果、激やせしても、本人はまだ太っていると思い込んでいます。栄養障害から、無月経、貧血、脱毛、低体温などの好ましくない症状が起こります。
大事な成長期にいつまでも「激やせ」が続けば栄養状態が悪化し、命にもかかわることがあります。
思春期の拒食の背景には、ふっくらした大人の女性(成熟した女性)になりたくないという思いが心の底にあります。

ありのままの自分を受け入れられない

20~30代にかけては、摂食障害が過食・嘔吐になるケースが多く見られます。普段食欲を無理に抑えていると反動で過食になり、食べた後には罪悪感と嫌悪感から嘔吐をすることになります。食べては吐くという行為を繰り返すうちに、歯が溶けたり、消化器系の炎症を起こしたり低カリウム血症を起こしたりします。


こうした行為は、自分に対して自信がなく、その反面自分は完ぺきになりたいという理想を描く人に多くみられます。現在のありのままの自分を受け入れられずに、「やせて幸せになりたい」「やせれば人生が変わる」と思い込んでいるのです。
摂食障害は、本人の性格や成育歴、心の問題などがからみあって発症すると考えられています。
摂食障害から月経不順や無月経を引き起こして婦人科を訪れるケースも多いのですが、心の問題を解決しない限り、本当の意味での治療にはつながっていきません。

プロフィール

吉野 一枝 先生
産婦人科・臨床心理士
吉野 一枝 先生

臨床心理士・産婦人科医 よしの女性診療所院長

日本産科婦人科学会認定医、日本臨床心理士資格認定協会会員、日本ソフロロジー法研究会会員、プロセス・コミュニケーション・モデル (PCM) 認定トレーナー
1954年東京生まれ。 高校卒業後、今で言う「フリーター」や、コマーシャル制作の会社勤務を経て、一念発起して医学部を志す。
趣味は音楽、料理、書道、乗馬など。