プラスコラム
PLUS COLUMN

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)との付き合い方

甲状腺異常は女性にとってはとても身近な病気ですが、この病気にかかると「妊娠できなくなる」など、誤解されている部分が少なくありません。女性に多い病気だけに、正しい知識を身につけてください。

遺伝や体質が関与。ストレスも発症の引き金に

体の代謝を促す働きのある甲状腺ホルモンが増加する甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)の代表的な病気がバセドウ病。なんらかの原因によって、甲状腺に対する自己抗体(TSH受容体抗体)がつくられて、甲状腺が過剰に刺激されることによって、甲状腺ホルモンが必要以上に合成・分泌されるようになります。そうなると、安静にしていても心臓がドキドキしたり、十分に食べているのにやせていったり、イライラや疲れやすいといったさまざまな症状が起こってきます。
なぜ、免疫異常が起こるのか、バセドウ病の根本的な原因は明らかになっていませんが、遺伝的・体質的なものやストレス、過労なども発症の大きな誘因になるといわれています。

薬物療法で甲状腺の働きを正常に戻すことができます

バセドウ病と診断されると、「治らないのでは」と落ち込む人もいますが、専門医による適切な治療を受けていれば、決して治らない病気ではありません。また、治療を続けていき甲状腺機能を正常に保っていけば、日常生活に支障はなく普通の人と同じ生活が送れます。

治療法には、薬物療法、アイソトープ療法、手術療法などがありますが、特別な事情がなければ、まずは薬により治療から始めるのが一般的です。手術療法は、現在はほとんど行われなくなりました。

薬による治療

甲状腺ホルモンの生産を抑える薬(抗甲状腺薬)を服用します。薬をのむと1~2か月ほどで、甲状腺ホルモンの値がほぼ正常に戻り、症状も改善します。
薬の量は、血液検査で甲状腺ホルモンの値をみながら少しずつ減らしていきます。少なくとも1年以上は薬を続ける必要はあります。
抗甲状腺薬による治療は、1年ほど続けて約20%の人が治癒するといわれています。残りの人は、その後も少しずつ薬をのんで、甲状腺ホルモンの量を正常に維持していくことで、普通の人と同じように生活ができます。

アイソトープ治療(放射性ヨード療法)

放射性ヨードを含んだカプセルを服用して、甲状腺の過剰な働きを抑えます。副作用などによって抗甲状腺薬の服用が続けられない人や、抗甲状腺薬でなかなかコントロールがつかない人にすすめられます。放射性同位元素を使用しますが、発がん性などの副作用はありません。ただ、妊娠中や授乳中の人にはこの治療法を行うことはできません。また、この治療は特殊な設備が必要なため、アイソトープ治療を行える施設は限られています。
なお、アイソトープ治療により甲状腺の働きを正常以下に落とすことで、甲状腺機能低下症になる人が増えてきます。この場合は、甲状腺ホルモン剤の服用が必要になります。しかし、甲状腺機能亢進症と比べれば、甲状腺機能低下症のほうが、はるかに安全にコントロールしやすくなります。

手術療法

一部を残して甲状腺を切除する手術療法は、以前はよく行われていましたが、現在はほとんど行われなくなりました。

治療で甲状腺ホルモンを正常に戻しておけば、妊娠・出産も問題なし

バセドウ病だと、妊娠はできないと思っている人もいるようですが、そんなことはありません。薬物療法で甲状腺ホルモンを正常にしておけば、妊娠・出産は普通の人とまったく変わりません。また、赤ちゃんの奇形が抗甲状腺薬の服用で多いというはっきりした医学的な根拠はありません。むしろ治療せずに、甲状腺が過剰な状態で妊娠・出産をすると、流産や早産が多くなる危険性が高まります。
なお、アイソトープ療法の場合、治療から妊娠まで1年以上あければ胎児に影響はないと考えられています。
いずれにしても、妊娠を考えるときは事前に専門医と相談するようにしてください。

刺激物は控えめにして、ストレスをためない生活を心がけて

バセドウ病は、薬物療法で甲状腺の働きを正常に戻すことができますが、治療効果を高めるためには、生活のリズムを整えて、十分に休養・睡眠をとるなどできるだけストレスをためこまないようにすることがよいといわれています。激しい運動は控えましょう。
食べ物では、唐辛子など新陳代謝を高める食物はとりすぎないように注意しましょう。そのほか、カフェインやお酒も控えたほうがよいでしょう。タバコはバセドウ病の発症リスクを高め、治りにくくさせると言われています。タバコを吸っている人は禁煙することをおすすめします。

プロフィール

宮川 めぐみ 先生
内科(内分泌・代謝)
宮川 めぐみ 先生

虎の門病院 内分泌代謝科勤務

東京女子医大を卒業後、東京女子医大内分泌センター内科に勤務。助手、講師を経て平成16年より虎の門病院健康管理センターに勤務。現在同病院の内分泌代謝科に所属し、甲状腺や糖尿病などの代謝疾患の診療にあたっている。
平成16年より東京大学腎臓内分泌代謝科の非常勤講師を兼任。
また厚生労働省の薬事食品衛生審議会専門委員も担当している。
医学博士、日本内科学会認定専門医、日本内分泌代謝専門医・指導医、日本超音波医学会認定超音波専門医・指導医、マンモグラフィ読影専門医

関連キーワード