プラスコラム
PLUS COLUMN

メイクが生みだすパワーのヒミツ

これまでもメイクについてはパーツごとに色々書いてきましたが、今回は、私がここ数年実感しているメイクの底力について書きますね。
皆さんメイクは好きですか? ぶっちゃけ言うと私は美容ジャーナリストという職業ですが、コスメフリークではありません。メイクはナチュラル派で、あまり冒険もしません。ただ、沢山のプロのヘアメイクさんとお仕事をさせていただいてきたなかで、メイクの理論、錯覚効果にとても興味をもっています。
 

 

「すっぴんは現実。メイクは錯覚」と言う人がいましたが、まさにその通り。マスカラをつけると目が大きくみえるように、メイクは錯覚効果という理論を応用した細かなテクニックを積み重ねる行為なのです。それが実にオモシロイ。だって、眉やアイライン、チークの入れ方を変えれば、錯覚効果で自分のなりたいイメージの顔になることだってできるのだから。舞台人は、役柄によりメイク法を研究しますが、これもすべて錯覚効果を狙っています。
 

でも、私がメイクの本当の素晴らしさ、底力を知り、美容の仕事をやってきて本当に良かったと自信をもっていえるようになったのは、実は5年くらい前なんです。私事ですが、6年前に乳がんが発覚し、抗がん剤治療を受けたときに、脱毛で頭髪どころか、眉毛もまつ毛もなくなり、肌がくすんでクマができ、いくらオシャレなウィッグや流行りの帽子をかぶっても、顔は重病人のままなことに、呆然としました。体調がよくても顔が重病人だと、心も行動も引きこもってしまいそうになるのです。

そんなときに、私を救ってくれたのが、メイクの知識でした。取材で若々しく元気に見えるメイクテクニックを熟知していた私は、その方法を実践したところ、私の病気を知らない人から、「最近きれいになったね」とまで言われたんです。そんな難しいテクニックを用いたわけではなくて。それを聞いて、これで大丈夫だ、と自信がつきました。自信がついたから、闘病中も明るく、社会とつながっていることができました。

心と外見はつながっている。外見と社会もつながっている。これは誰もが感じていることですよね。だから外見が復活すると、ものすごくパワーがでる。社会とまたつながりたくなる。一度落ちたぶん、そのパワーはすごかった。

ただしメイクは理論があるから、上手に使わないと失敗することもあります。たくさんメイクしたからってキレイになるわけではない。必要なところに必要な錯覚効果を取り入れることで、自然でハツラツと見えるメイクができる。
そんなことから私は、がん患者さん向けにメイクセミナーや講演会で、メイクのコツをアドバイスする活動を細々と続けるようになりました。その場では私のように、メイクが前向きになるきっかけになった女性は多いように思います。
 

がんと化粧を研究している国立がん研究センター所属の野澤桂子先生もおっしゃっていました。化粧はその役割を着る行為。元気なメイクをすると元気な役割を着ることができうる、と。本当にそうだと思います。
ある相談員の方は、がん患者さんに「がん患者らしく、メイクはどこまでしたらいいのでしょう」、と、質問されたことがあるそうです。いやいや、がん患者らしい外見でいる必要はまったくない。そこに境界線はない。体調がいいときは、元気に見えたほうがいいに決まっています。誰もが、メイクで元気をもらってほしいと思います。
 

もちろん読者のほとんどは、がん患者ではありませんが、他の病気でも健康でも同じこと。落ち込むと心は折れやすいけれど、外見を元気にすることで、前向きになる力を得られる、そういうことにメイクを使って欲しいと思います。

東北へマッサージのボランティアに数度行かせて頂きましたが、5月に行ったとき、避難所で暮らす多くの女性が化粧をしていました。そして行くたびにメイク率は確実に上がっていて、私にはそれが、化粧が前向きに生きていく意思表示のように感じられました。
 

もちろん、化粧したくないときもあります。そんなときに化粧は意味をもたない。化粧に興味がない人もたくさんいて、みんなが化粧で元気になるとは言いません。人の生活にはONとOFFがあり、それも大切で、いつもキレイにしているのは疲れる。化粧は義務になったら楽しくないし化粧の持つエネルギーも半減です。でも、キレイになりたいと思っている人で、気持をONにしたいとき、やっぱり化粧ってすごい力になるんだなと思う。

だから、自分をキレイにしてくれるメイクのコツを知っておくことはやっぱり大切。

そして、美容をやってきてよかったと、心から今思うのです。

プロフィール

山崎多賀子
(やまざき たかこ)
山崎多賀子

1960年生まれ。
会社員、女性誌の編集者を経てフリーに。雑誌やwebなどで美容、健康記事や美容ルポルタージュ、エッセイなどを手がけ、各誌で活躍。2005年に乳がんが発覚、2006年から女性誌に闘病記を掲載し話題に。
また、美容ジャーナリストという職業と闘病経験を活かし、乳がん治療中もいきいきとキレイでいられるためのメイク法や検診の重要性などを各地で講演。
著書に『「キレイに治す乳がん」宣言!』(光文社)、『山崎多賀子の極楽ビューティ体験記』(扶桑社)がある。
NPO法人キャンサーリボン理事。NPO法人キャンサーネットジャパン認定乳がん体験者コーディネーター。

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