プラスコラム
PLUS COLUMN

さまざまな形で現れる更年期の症状

女性は、一生のうちにいくつかの体の節目を迎えますが、体の機能や体調が大きく変化するのが更年期。誰にでも等しく訪れる更年期ですが、正しい知識をもっているのといないとでは、更年期の過ごし方に差がつきます。今回から4回にわたって更年期のお話をしていきます。

更年期は、女性ホルモンの大きな波に心も体も大きく揺さぶられる時期

女性の心と体は、卵巣から分泌される女性ホルモンに大きく影響を受けます。女性ホルモンの分泌量は毎月、排卵→月経というサイクルで増えたり減ったり変化していますが、ライフステージによっても変化していきます。
更年期は、閉経前後の10年を指し、女性ホルモンの分泌が急激に減っていく時期。女性ホルモンの低下という大きな波にさらされて、女性の体も心も大きく揺さぶられます。
卵巣の老化にともなうエストロゲンの急激な低下に体がついて行かずに起こるのが、更年期の症状。さらに、エストロゲンは、心臓・血管系や脳機能、皮膚をはじめ脂質代謝や骨代謝など体のさまざまな器官に作用しているため、更年期の症状は全身に及びます。

 

エストロゲン不足で起こる症状・病気・トラブル

 

物忘れ、集中力の低下も!

更年期症状というと、のぼせやほてり、発汗、動悸などの症状がよく知られていますが、上のグラフにあるように、更年期に起こる不調やトラブルは実に多彩です。
なかでも、意外と知られていないのが、エストロゲン不足が脳や気持ちに及ぼす影響です。
更年期世代のあなたは、最近どうも物忘れが多くなった、固有名詞がすぐに出てこない、判断力や集中力が落ちてきたと感じることはありませんか? 
「年のせい」にされがちなこうした症状も、実はエストロゲンの低下に関係があります。

ストレスにも弱くなる

さらに、更年期からは、やたらとストレスに弱くなったという訴えも増えてきます。
たとえば、「あのとき、友達がいった言葉はどういう意味なのかしら」と相手の言葉に妙にこだわってしまったり、「あのときの夫のひと言が許せない」などと昔のことをくよくよと考えて眠れなくなったり・・。
また、ある患者さんからはこんな訴えがありました。お子さんが歯科の定期検診に行ったときのこと。子どもを送り出したとき、「検診で子どもに虫歯がみつかったらどうしよう」と思えてきて、のどが詰まって息苦しくなってきたそうです。「自分でもばかばかしい考えだということはわかっているのに、小さなことがすぐ気になってしまうんです」といいます。そこで、私が「それも更年期症状のひとつなんですよ」とお話したら、ホッとした表情をされていました。


エストロゲンは気持ちを安定させる作用があるので、エストロゲンが低下する更年期は、いろいろな出来事に過敏に反応して気持ちが不安定になる人もいます。
また、「私は、更年期症状はないんです」といっていた患者さんから、「女性ホルモンを外から補うHRT(ホルモン補充療法)を行ったら、家族から『お母さん明るくなったね』とか『うちの中がよく片付くようになったね』といわれるようになったんですよ」という報告を受けたこともあります。
この方のケースのように、更年期症状は、本人は大丈夫だと思っていても、周囲が「なんとなく変だな」と気づいている場合もあるようです。

皮膚粘膜の乾燥、関節の不調なども多い訴えのひとつ

そのほか、更年期はエストロゲンの低下により皮膚粘膜が弱くなるため、湿疹やじんましんが起こりやすくなったり、皮膚の乾燥やかゆみに悩まされる人が増えてきます。鼻の中や目の乾き、ドライマウスを訴える人もいます。ドライマウスというのは、唾液の分泌量が減って口の中が慢性的に乾くもので、口の中がネバネバして口臭が起こったり、クッキーなどパサパサしたものが飲み込みにくくなったりします。


さらに、腟の乾燥感も多い訴えのひとつです。ヒリヒリしたり、かゆくなったり、排尿時に不快感が起こったりします。また、腟の乾燥や萎縮から性交痛も起こってきます。
更年期の不調が関節に出る人もいます。ばね指になるなど、指や手首、膝など比較的小さな関節に症状が出やすいようです。
女性ホルモンは潤滑油のように女性の体に作用して関節をなめらかに動かしているため、腰や背中、首などが、なんとなくぎくしゃくして油切れになったような感覚を覚える人もいます。
このように、更年期は全身のあちこちに不調が現れます。そのため、症状にあわせて各診療科を受診し、そのたびに異常がないといわれてかえって不安になる人が少なくありません。けれども更年期症状の原因は、すべてエストロゲンの低下にあります。

プロフィール

対馬 ルリ子 先生
産婦人科
対馬 ルリ子 先生

日本産婦人科学会認定医、日本思春期学会理事、日本性感染症学会評議員、女性医療ネットワーク発起人代表。

2003年、女性の心とからだ、社会とのかかわりを総合的にとらえ、健康維持を助ける女性専門外来をすすめる会「女性医療ネットワーク」を設立。『「女性検診」がよくわかる本』(小学館)ほか著著も多数。近著に『娘に伝えたいティーンズの生理&からだ&ココロの本』(かもがわ出版)がある。