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増えている卵巣がん

乳がんと同様に、ここ数十年の間に急激に増えているがんに卵巣がんがあります。卵巣がんにかかる人は、40代頃から増えて、そのピークは50代~60代。誰でもかかる可能性のあるがんなので、油断は禁物。女性検診で定期的に卵巣の様子をチェックしてもらうことが大切です。

現代女性は、誰でも高リスク

卵巣は、排卵のたびに傷を負い、それを修復してまた卵を育てることを繰り返しています。妊娠中・授乳中は、排卵が抑えられるため卵巣はその働きを休むことができますが、現代女性は妊娠の機会が大変少なくなったために、卵巣は、休む間もなく排卵し働きづめの状態が続いていることになります。卵巣がんが増えている背景には、こうした女性のライフスタイルの変化が大きな要因として考えられています。


また、乳がんと同様に遺伝子もリスクファクターとして考えられており、家族に卵巣がんにかかった人がいる場合は、いない人に比べて発症の確率が高いことがわかっています。
さらに最近では、子宮内膜症の卵巣チョコレートのう胞(→「子宮内膜症」参照)が「がん化」することも知られるようになりました。子宮内膜症が卵巣の中で発生したものを「卵巣チョコレートのう胞」といいますが、放っておくと古い血液がたまり続けて、卵巣自体がどんどん大きくなってふくれ上がってきます。子宮内膜症自体は良性の病気ですが、卵巣チョコレートのう胞があって年齢が40歳以上の人や、のう腫のサイズが大きい人(4cm以上)は、放っておくとがん化する危険があるために、手術がすすめられます。
卵巣がんが増えている背景には、近年は子宮内膜症にかかる人が増えていることも無関係ではありません。

初期の自覚症状はほとんどありません

良性の卵巣腫瘍と同様に、卵巣がんの場合も、初期にはほとんど自覚症状がありません。がんが進行して卵巣が大きく腫れてくると、下腹部にしこりを触れたり、腹部が張ってきたり、トイレが近いとか下腹部が痛むといった症状が出てくるようになります。さらにがんが転移し、がん細胞が腹腔内で広がると、腹水もたまり、おなかがふくれていきます。
初期の自覚症状が表れにくい卵巣がんは、早い段階で見つかることは少なく、卵巣が大きく腫れたり、腹水がたまった状態でみつかることが多いものです。
おなかのふくらみは、中年太りのせいだと思っていたら、卵巣がんであったというケースもあります。

手術療法と化学療法を組み合わせて治療

治療は、手術療法と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせて行います。
手術療法では、両側の卵巣・卵管、子宮、大網(たいもう=胃から垂れ下がって、大腸・小腸を覆っている脂肪組織でがんが転移しやすい)、リンパ節などを切除します。周囲の組織にがんが広がっていれば、その部分も可能な限り取り去ります。がんが早期で、妊娠の希望があれば、片側の卵巣と子宮を残す保存手術をすることも可能ですが、再発の危険性も出てきますので、医師と十分に相談して選択することが大切です。


化学療法は、一般に手術後に行いますが、がんが進行している場合は、最初に化学療法を行って、がんを縮小してから手術することもあります。
化学療法は、昔に比べて治療成績がよくなりました。それでも卵巣がんの完全治癒が難しいのは、やはり発見が遅く、かなり進行してから治療に入ることが多いからです。

子宮とともに、卵巣の状態も定期的にチェックを

卵巣がんは、おなかの閉じられた空間の中で静かに育っていくがんです。初期は自覚症状がほとんどないだけに、早期発見・治療には婦人科検診が欠かせません。卵巣の腫れは、超音波検査で簡単にチェックできます。婦人科のかかりつけ医をみつけて、子宮がん検診を受けるときにはついでに卵巣の状態も定期的に調べてもらうとよいでしょう。

プロフィール

対馬 ルリ子 先生
産婦人科
対馬 ルリ子 先生

日本産婦人科学会認定医、日本思春期学会理事、日本性感染症学会評議員、女性医療ネットワーク発起人代表。

2003年、女性の心とからだ、社会とのかかわりを総合的にとらえ、健康維持を助ける女性専門外来をすすめる会「女性医療ネットワーク」を設立。『「女性検診」がよくわかる本』(小学館)ほか著著も多数。近著に『娘に伝えたいティーンズの生理&からだ&ココロの本』(かもがわ出版)がある。

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