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現代女性にリスクが高い子宮体がん

日本では少ないといわれていた子宮体がんですが、少子化などライフスタイルの変化から、近年は日本でも急増中です。30代で発症することもあるので、若い世代も油断はできません。

子宮の内側は、子宮内膜という粘膜に覆われていて、ホルモンの働きによって増殖しては、はがれ落ちるというサイクルを繰り返しています。この子宮内膜の組織にできるがんが子宮体がんです。


子宮体がんは、閉経前後の女性に発生しやすいがんですが、最近では、若い世代にもみられるようになり、30代で発症することもあるようになりました。
原因のすべてが解明されているわけではありませんが、乳がんと同様に、発症には女性ホルモンのエストロゲンが深くかかわっているのは確かです。
エストロゲンは、月経周期にあわせて子宮内膜の再生と増殖を促す働きがありますが、このエストロゲンの長期にわたる刺激が子宮内膜の細胞のがん化に関与していると考えられています。
子宮体がんは、妊娠・出産経験のない人や長期間月経不順が続いた人などに多くみられる傾向があります。そういう意味では、現代女性は誰でもハイリスクだといえるでしょう。まだ若いから大丈夫と油断しないで、すすんで子宮体がん検診を受けましょう。子宮体がんは早期に発見すれば、治るがんです。

不正出血に要注意

初期では無症状の場合もありますが、代表的な自覚症状は不正出血です。
ダラダラと出血していなくても、点状の少量の出血や褐色のおりものも不正出血に含まれるので注意をしてください。
更年期の人や月経不順の人は、不正出血があっても「ホルモンの乱れからくるもの」と思い込んで受診が遅れるケースが少なからずあります。不正出血があったら自己判断せずに、必ず受診をしてください。
ほかに、おりものの増加もみられる症状です。がんが進行してくると、下腹部痛や血や膿をともなったおりものが見られるようになります。

子宮体がん検診で、まず行われるのが細胞診です

子宮体がん検診は、まず子宮内に細い棒状のブラシを挿入して、子宮内膜細胞を採取して調べる細胞診を行います。
子宮内膜は、子宮の内壁にはりめぐらされた絨毯のようなものです。したがって、細胞診断や次に述べる組織診では、子宮内膜細胞の一部しか採取することができません。そのため、子宮体がん検査は、経腟超音波検査を併用して行うことが有効です。
超音波検査では、子宮内膜全体の様子がわかります。子宮体がんのリスクがあがっている人は子宮内膜が異常に厚くなっていたり、凸凹しているなど、子宮内膜の状態に異常所見がみられます。
細胞診でがんが疑われる場合には、組織診を行って診断します。組織診断は、小さなスプーン状の器具で子宮内膜の組織をかきだして採取して行うものです。検査には多少の痛みが伴うため、麻酔をして行う医療機関もあります。

子宮体がんでは、がんになる前の状態から治療をはじめます

子宮体がんは、子宮内膜のからの広がりによって0期~IV期までの5つの病期に分類されます。 
このうち0期は、まだ本当のがんとはいえないけれど、がんに移行する可能性が高いものです。子宮の内膜が分厚くなっている状態(単純性子宮内膜増殖症)はがんではありませんが、この状態に異型細胞がみられる場合(異型子宮内膜増殖症)が子宮体がんの0期にあたります。


子宮がんの場合は、がんになる前の段階(高度異形上皮)で治療に入ります。子宮頸がんは、0期の前段階で治療、子宮体がんは、0期(異型増殖)で治療。若い女性で子宮を残す必要がある人は、黄体ホルモンを使って子宮内膜をはがしていきます(ホルモン療法)。
妊娠・出産を希望しない人は、年齢などを考慮して、単純子宮全摘術を行います。単純子宮全摘術は、子宮筋腫などと同じ手術、比較的簡単に行え、手術後は月経がなくなるという以外、深刻な後遺症はありません。


手術は、がんの進行によって、単純に子宮を取るだけの手術から、卵巣・卵管を含め周囲のリンパ節まですべて取る(リンパ節郭清術)ものまでさまざまですが、今は、体がんI期以上は、リンパ節郭清術や安全率を見込んでの拡大手術をすることが多くなりました。
子宮体がんは進行すると、血液の流れに乗って転移したり、子宮の壁を食い破っておなかの中に散らばった状態になります。
がんが子宮の壁を食い破るまえに、まず不正出血が起ります。不正出血があるときは、躊躇せずに受診して検査を受けましょう。

予防には低用量ピルが有効です

早期発見・治療のためには、何より検診を受けることが大切です。40代後半以上の方は、年に1回、子宮頸がん検診とともに経膣超音波検査か子宮体がん検診を受けることをおすすめします。
また、若い世代の月経不順や排卵障害は、ほうっておかないことです。ホルモンバランスが悪いと、子宮内膜が十分にはがれず、いつまでも古い内膜がとどまって分厚くなっていくことになり、それが子宮体がん発症の温床になります。ホルモンのバランスを整え、子宮体がんを予防するためには、低用量ピルが有効です。子宮体がんのリスクが半分になると言われています。低用量ピルに含まれる黄体ホルモンの作用で、毎月、子宮内膜がきれいに掃除され、子宮内膜が厚くなることはありません。
低用量ピルを上手に使って、子宮体がんの予防を心がけましょう。

プロフィール

対馬 ルリ子 先生
産婦人科
対馬 ルリ子 先生

日本産婦人科学会認定医、日本思春期学会理事、日本性感染症学会評議員、女性医療ネットワーク発起人代表。

2003年、女性の心とからだ、社会とのかかわりを総合的にとらえ、健康維持を助ける女性専門外来をすすめる会「女性医療ネットワーク」を設立。『「女性検診」がよくわかる本』(小学館)ほか著著も多数。近著に『娘に伝えたいティーンズの生理&からだ&ココロの本』(かもがわ出版)がある。

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