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母性内科ってなに?

出産年齢が上がって、35歳以上の高齢出産が年々増加しています。高齢出産でも安心して赤ちゃんを産むために、妊娠前に少しだけ注意してほしいことがあります。今回から4回にわたって、母性内科の立場から妊娠・出産後の健康を考えていきます。

元気な赤ちゃんを産むためには、お母さんの健康が基本

母性内科をご存知しょうか? 
母性内科という診療科は、全国でもまだ非常に数が少ないので「初めて聞いた」という方も多いことでしょう。
母性内科は、ひとことでいえば妊娠・出産に向けて内科医の立場でサポートをしていく診療科。妊娠を希望している女性や現在妊娠中の女性、さらに産後のママも対象とした、今までにない新しい概念の診療科です。


内科は、妊娠や出産とは一見無関係に思えるかもしれませんが、実は密接な関係があります。健康な赤ちゃんを産み育てるためには、なによりもまずお母さんの体が健康であることが大事だからです。
そんなふうにお話しすると「私は健康だから大丈夫」という声が聞こえてきそうですが、自分の健康に過信は禁物です。
妊娠は病気ではありませんが、からだが大きく変化することで、からだに大変な負荷がかかります。また、からだの内部ではホルモンや免疫系、代謝も妊娠前とは大きく変わります。

そのため、これまで健康に自信があった人も妊娠をすると、体質的にもっていた病気が頭をもたげてくることがあります。

妊娠前に「血圧がやや高め」の人は要注意!

たとえば、妊娠中に問題になるものに高血圧があります。
一般的に高血圧症といえば、お年寄りがかかるイメージがあるため、妊娠を考える若い女性には無縁のものだと思われがちです。
けれども、20代~30代の若い世代でも、本態性高血圧といって、遺伝や加齢、塩分のとりすぎ、運動、肥満などが関係するといわれる高血圧症を持っている人がいます。


また、最近は35歳以上の高齢出産が目立つようになりましたが、35歳以上になると、高血圧症や糖尿病などの持病をもつ女性や高血圧症と診断されなくても「血圧が高め」の女性が増えてきます。
妊娠前から「高血圧症」と診断されていれば、内科医と相談しながら薬で血圧をコントロールし、準備を整えて妊娠にのぞむことができます。
しかし、健診で血圧が少し高めという結果が出た場合は、病気と診断されたわけではないので、多くの人は血圧のことなど気にもとめずに妊娠します。


妊娠前に血圧が高めであっても、妊娠初期は誰でも生理的に血圧が下がりますから、妊婦健診でも問題視されません。
ところが、妊娠後期になると、生理的な血圧の下がりがとれてきます。そうなると、妊娠前に「血圧が高め」だった人はまたたくまに高血圧となり、「妊娠高血圧症候群」という合併症を起こしやすいことが知られています。妊娠高血圧症候群は、重症になると母子の生命にも危険が及ぶトラブルが起こるなど、軽視できない重大な病気です。

妊娠して、突然、糖尿病の症状が現われる人も

もうひとつ。妊娠中に注意したい病気があります。それまで糖尿病の症状がなかった人が妊娠をきっかけに発症する「妊娠糖尿病」です。
妊娠糖尿病になると、母体は妊娠高血圧症候群や羊水過多症を、赤ちゃんは巨大児で生まれる可能性があるなど、母子ともに影響を及ぼします。
糖尿病には「不摂生をした人がかかる病気」というイメージがあるためか、妊娠糖尿病と診断されると、「運動や食事にも気をつけていたのに、なぜ私がこんな病気になるの」とショックを受ける妊婦さんが少なからずいます。


けれども、それは、もともと糖尿病になる体質をもっていて、妊娠という負荷がかかったために「妊娠糖尿病」という病気が顔をだしてきたということ。不健康で不摂生な生活をしてきたからではありません。
妊娠糖尿病になっても、あまりがっかりしないでください。
医師の指導のもと、食事、運動、休養、治療などで血糖値をいい状態にできていれば、出産予定日まで安全に自然の陣痛を待つこともできます。

妊娠は、その人のもつ「健康力」を試す「負荷テスト」

妊娠中に急激に血圧があがったり、血糖値が高くなったりするのは、言いかえれば体の節目にそのようなトラブルが起こりやすい生活習慣や遺伝的な要素があるということです。したがって、妊娠中に現われた不調やトラブルは、産後治ったとしても、更年期以降に移行に再び生活習慣病として現われる可能性があります。
「遺伝的な要素」は、変えられない事実ですが、食事や運動などの生活習慣を見直し、中年太りに気をつけることで、将来起こる可能性のある生活習慣病を未然に防ぐことができます。
妊娠~出産で不調が現われてもがっかりしたり、落ち込んだりしないで、「自分の健康情報がわかった」と前向きにとらえて、積極的に健康管理をしていきましょう。

プロフィール

村島 温子 先生
母性内科
村島 温子 先生

国立成育医療センター母性内科医長

山梨県に生まれ、筑波大学医学専門学群卒業。
内科とくに循環器内科医を目指し虎の門病院研修医に。
研修終了後、生活習慣が大きな要因となる心筋梗塞よりも原因不明で若い女性が侵される膠原病に立ち向かいたいと順天堂大学膠原病内科に入局。
「膠原病と妊娠」をテーマにしていたことがきっかけで、現職に。
日本リウマチ学会評議員、日本内科学会総合内科専門医部会幹事

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