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女性に多い手指のトラブル

変形性関節症と腱鞘炎は女性に多い2大トラブル
痛風は男性に、自己免疫疾患は女性に多いなど、いくつかの病気には男性と女性とでかかりやすい病気、かかりにくい病気があります。整形外科で扱う病気では、女性がかかりやすい病気として骨粗鬆症などが知られていますが、意外と知られていないものに手指に起こるトラブルがあります。今回は、女性に多くみられる「手指の変形性関節症」と「腱鞘炎」についてお話しましょう。

更年期以降の女性に多い手指の変形性関節症

手指の先がこわばる、痛んで腫れる、変形してくる、など関節リウマチに似た症状が出る病気に、手指の変形性関節症があります。
膝の変形性関節症と同様に、手指の場合も加齢などで関節に繰り返し負担がかかって、関節軟骨がすり減って起こります。更年期以降の女性に多くみられるため、女性ホルモンの変動と関連して起こるのではないかといわれていますが、はっきりしたことはまだわかっていません。起こる部位によって「へバーデン結節」、「ブシャール結節」、「母指CM関節症」などがあります。

手指の変形性関節症が起こる部位

へバーデン結節 ブシャール結節 母指CM関節症

へバーデン結節

指先からいちばんめの関節に起こるものをヘバーデン結節といいます。手指の変形性関節症の中ではもっとも多く見られるもので、女性の発症頻度は、男性の10倍にも及びます。最初は手指のこわばりからはじまって痛み、腫れ、熱感などの症状がでてきます。進行すると指が伸びなくなったり、指が横に曲がった状態でかたまってしまったりします。


また、人によっては「粘液腫」といって変形した関節上や脇の部分にゼリー状の物質がたまり、水ぶくれのようなものができることもあります。粘液腫ができると、悪性の腫瘍ではと心配される方もいますが、良性のものなので心配はいりません。気になるときには、注射針を刺して中の液体を抜く治療を行いますが、とくに治療をしなくても自然になくなることが多いものです。

ブシャール結節

変形性関節症が指先から二番目の関節に起こる場合をブシャール結節といい、へバーデン結節に伴って起こることが多くあります。関節リウマチは、指先から2番目の関節に出ることが多いので、この部分に症状が出たときは、関節リウマチかどうかを見分けることがとても重要です。症状は、へバーデン結節と同じで、関節のこわばりや痛み、腫れ、変形などがでてきます。

母指CM関節症

親指の付け根に起こるものが母指CM関節症です。親指が痛むと、ものをつまむことができにくくなります。そのため、ドアノブノブをまわしたり、はさみをつかったり、瓶のふたをあけるといった日常の簡単な動作が困難になり、生活上いろいろと不便がでてきます。

治療

手指の変形性膝関節症の多くは、2~3年で進行が止まり、痛みもとれてきます。しかし、残念ながら変形した関節はもとに戻すことはできません。
手指が変形してしまうと、女性はなんといっても見た目の問題が気になるでしょう。また、痛みも2~3年でおさまるとはいえ、それまでの間、痛みとどう付き合うかが問題になります。そこで、治療では痛みを緩和させ、関節の変形の進行を食い止めることが中心になります。


痛みに対しては、消炎鎮痛剤の内服や湿布、軟膏などを使います。また、テーピングや小さな装具による固定も有効です。そのほか、温熱療法も痛みを軽減するのに効果があります。自宅でのケアとしては、手の血行を良くしたり、関節が曲がった状態で固まらないようにするために、入浴時は湯船の中で手指を動かすようにするとよいでしょう。
へバーデン結節やブシャール結節は、痛みがあまりにもひどいときは関節を固定する手術をすることもありますが、通常はあまり手術は行われません。


母指CM変形関節症では、装具を使った療法などで効果が得られない場合、関節を固定する手術やじん帯の手術をすることがあります。
(CM関節症の場合は関節がグラグラする不安定な状態になったり、亜脱臼の状態になりやすいので靭帯を移植して関節を安定化させたり、もうすでに関節の破壊が進んでいる場合は関節固定術を行います)

手の使い過ぎや、妊娠・出産、更年期に起こりやすい腱鞘炎

筋肉と骨をつなぐ腱の外側を包むトンネル状の腱鞘という部分に起こる炎症が腱鞘炎。正式には狭窄性腱鞘炎といいます。腱鞘に炎症が起こって内腔が狭くなると、腱鞘の中を通っている腱がスムーズに通過できなくなります。そのため、指を曲げたり伸ばしたりすると引っかかる感じがしたり、手首や指を動かすと痛みます。
多くは手の使いすぎが原因で起こりますが、妊娠中や出産後、更年期など女性ホルモンが大きく動くときにも多く見られます。代表的な腱鞘炎には、次の2つがあります。

ドゥ・ケルバン病

手首の親指側に起こる腱鞘炎です。おもな症状は手首の痛みと腫れです。親指を中に入れて手を握り、手首を小指側に曲げるとひどく痛むことで診断がつきます。

ばね指

指の屈筋腱という部分に起こる腱鞘炎です。もっとも多く起こるのは親指ですが、中指、薬指、人差指、小指でもみられます。指を曲げたり伸ばしたりするときに、腱がしばしばひっかかり、ばねではじかれるような動きをします。ひどくなると指が伸びなくなり、無理に伸ばそうとすると「カクン」とか「パキッ」という音がしたりします。

治療

手の使いすぎが原因で起こるので、手をできるだけ使わないようにして安静を保つことが大事です。治療では、添え木や装具を使って手首や指を安定させたり、炎症を止める薬を使います。また、ステロイド剤の注射を打つこともあります。ステロイド剤の注射は非常によく効きますが、頻繁に行うと腱を弱くすることがあるので、基本的には2~3回程度しか行いません。
これらの治療をしてもなかなかよくならないときは、狭くなった腱鞘を一部切る手術をします。手術は、外来で行える簡単な手術で、所要時間は、局所麻酔も含めて20分程度ですみます。手術をすると、指がスムーズに動くようになります。

ひと言アドバイス

パソコンを1日中打ったり、重いものをもったり、長時間赤ちゃんを抱っこするなど、毎日の生活の中で手を酷使していることが多いものです。手を使い過ぎたときや手首や指にこわばりを感じたときには、もみほぐしたり、休憩を入れたりして、手をいたわってあげてくださいね。

プロフィール

大井 律子 先生
整形外科医
大井 律子 先生

医学博士 山口大学女性外来担当医

熊本県生まれ。 1997年、高知医科大学卒業。 同年、山口大学医学部整形外科教室へ入局し、医局関連病院、山口大学大学院医学系研究科などを経て、現職。 日本整形外科学会専門医。